今日の問題提起:

バッハという人は当たり前の曲を書かない人です。よね? もしあなたがバロック音楽をバッハしか知らないと気が付かないかもしれませんが、同時代の他の作曲家(ヘンデル、テレマン、ラモー、クープラン、スカルラッティなど)と比べてみると分かります。バッハはよっぽど特殊です。

舞曲もです。「ガヴォット」という舞曲はバッハの時代に現役で踊られていた人気の宮廷舞曲でした。ステップを反映した特徴的なリズムを持っていて、普通は聴いた瞬間に「ああ、これはガヴォットだ」と分かるものなのです。でもこのガヴォットは違います。ガヴォットのリズムが出てきません。それどころか、両手が厳格なカノンで始まります。

こういう厄介な曲をちゃんとガヴォットとして聞かせようと思ったら、小手先の工夫ではダメです。ちゃんと踊りのステップに立ち返って考える必要があるのです。

ビデオの要約:

  • ガヴォットの基本リズム:1小節の中に1つの2分音符と2つの4分音符。冒頭には2つの4分音符のアウフタクト
  • ガヴォットのステップ:1つめの4分音符で片足を踏み出し、次の4分音符でジャンプし、(小節線を越えて)2分音符で着地し膝をまげてショックを吸収し膝を伸ばす
  • 小節線を越える所でダンサーはまだ空中にいるので、小節線をイン・テンポで通過せず、少し溜めると踊りやすくなるし、ガヴォットらしい演奏になる

 

では、以上の解説を踏まえて、この曲を通してお聴き下さい。

こういうことは もうやめましょう!

このガヴォットはどのくらいの速さで弾くの?

音は伸ばすの? それとも切るの?

そうだ、YouTubeをいくつか聴いてみよう。

ダメな理由:YouTubeに出回っているガヴォットの演奏はほとんど当てになりません。他人の演奏を真似して弾いているだけの演奏が多く、それがまた真似されて、間違いが際限なくコピーされ続けているのです(特にピアノ演奏)。

踊れないようなワルツを演奏すると先生に叱られるのに、踊れないようなガヴォット演奏がYouTubeを埋め尽くしているなんて、何だか変ですよね。

代わりにあなたにして欲しいことはこうです。

  • 歴史的背景を分かった上で聴く
  • 歴史的背景を分かった上で弾く
  • 歴史的背景を分かった上で教える

あなたも、バッハの組曲の歴史的背景を学んで、まさに目の前で王侯貴族が踊っているような踊る喜びに満ちた演奏ができるようになってください。