今日の問題提起:

どうもおかしいと思ったんですよね。「バッハのインヴェンション第7番ホ短調をどうしてピアニストたちはやたらに速く弾くんだろう」って。

この第7番の始めの4小節では、各小節の前半は左手が休みで右手の主題だけになります。するとその都度、何だか音楽の密度が薄く感じてしまいがちです(複雑な対位法で音楽の密度がやたらに高いのがバッハらしさですからね)。そういうとき、テンポを上げれば確かに時間当たりの音楽の密度は高まります。

でも、バッハの自筆浄書譜、長男に作曲したときの初期稿、そして後に弟子がレッスンのために写譜した楽譜には、細かい音に複雑な装飾音がたくさん付いているのです。今多くのピアニストたちが弾いているテンポでは、それらの装飾音は弾けません。たとえ弾けても速すぎて美しくありません。

ちなみに、インターネットで無料でダウンロードできる「ツェルニーが校訂した」とされる楽譜には、四分音符=112なんていう猛烈なテンポが指定されていますよ。当然ですが、そんなテンポで弾けないような細かな装飾音は全部省略されています。世の中に出回っているこの曲の速い演奏のルーツがこんな所にあったなんて、問題の根は深いですね。

ビデオの要約:

  • バッハの自筆浄書譜、長男に作曲したときの初期稿、そして後に弟子がレッスンのために写譜した楽譜には、細かい音に複雑な装飾音がたくさん付いている
  • それらの装飾音が美しく弾けるテンポはけっこう遅め
  • 遅いテンポでは一見音楽の密度が低くなるように感じられる右手のソロ部分は、テンポ・ルバートを適用する可能性がある
  • テンポ・ルバートから生じる曲線美と、複雑な装飾音の表情とが、よく一致する

 

では、以上の解説を踏まえて、この曲を通してお聴き下さい。

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