楽器を虫に食べられた!
つい先日のことです。チェンバロを調律していると、ある一つの音が鳴りません。
「おかしいなあ。昨日はちゃんと鳴っていたのに。」
チェンバロの音が鳴らなくなる原因はいくつかあります。
今世の中にあるほとんどのチェンバロは、弦をはじく爪がプラスチックでできていて、これが突然ポキッと折れることがよくあります。でも私のチェンバロはプラスチックの爪を自分で全部カラスの羽の軸から削りだして交換したので、爪が突然折れることはありません。何日もかけて少しずつ弱っていくんです。
その他に考えられるのはこうです。弦をはじく爪が弦の上に乗ったままになってしまうことがありますし、逆に爪が空振りして弦をはじかなくなることもあります。いずれも、爪を取り付ける「タング」という部品の動きが渋くなるのが原因です。
でも「毎日使っているこの緑色のチェンバロでは、それは起こらないんだけどなあ」と不思議に思いながら、鳴らない音の爪を調べてみました。すると、
爪がものすごく薄く、あり得ないほど薄くなっているのです!(おそらくミクロン単位)
その爪の下には、丸々と太った2mmくらいの見たこともない虫がうずくまっています。犯人はこれだな。爪を食べたんだな。
カラスの羽は有機物です。拾った羽を密閉して保管しておくと、時々虫に食われていることがあります。過去にも一度だけ、長い間弾いていないチェンバロの爪が何者かに食べられたらしい痕跡を見つけたこともありました。でもまさか、毎日使っているチェンバロの爪が食べられるなんて。
だからって、部屋の中がそんな虫だらけなんじゃありませんよ。しょっちゅう掃除機をかけているし、私自身この虫を見たのは過去何十年のチェンバロ人生で初めてなんです。
犯人は弦の下にいて指では捕まえられないので、チェンバロ用の道具箱からピンセットを取り出して捕まえることにしました。すると、秒速5mmくらいの遅さですが、逃げようとするんです。それに丸々と太っているので、なかなかピンセットで捕まえられません。どこか楽器の隙間に逃げ込まれたら困ります。これから毎日チェンバロの爪を食べられ続けるなんて御免です。
それでもなんとか捕まえることができて、そのまま外に投げてやりました。
私は自分のチェンバロを自分だけの持ち物だと思っていました。それが今回の事件で、何と言うか、自然の一部でもあるんだという気がしてきた次第です。そんなふうに感じることが、これからの私の演奏にも影響を与えるのでしょうか?
追伸:
虫とは全然違う話ですが、新しいビデオができたのでご紹介します。純粋な伴奏としての左手の音をどう弾くか、という話題です。どんなに簡単な音も、何となく弾くのではつまらないですね。
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思いがけない事件でしたね。
でも、楽器が虫に食べられるというのは、木でできた楽器なればこそだと思います。
金属とプラスチックでできた楽器は、虫に食べられることはないと思います。
コメントを頂いて思い出しました。
今はスタジオの壁に掛かっているヴァイオリンを、ここに飾る前にはずっとケースの中に入れっぱなしだったんです。ケースを開けた時に弓の毛(馬の尾で作ります)が虫に食われてボロボロになっていました。
弓の毛を交換して、今度は壁にかけるようにしてから10年近くになりますが、虫害には遭っていません。
「ケースに入れて、しまっておけば安全」とは限らない、ということですね。
昔も、同じようなことはあったのでしょうね。
虫だけでなく、ネズミにかじられるのを防ぐために、脚に、一見装飾に見えるネズミ返しが付いたチェンバロもありますね。
脚にネズミ返し! それは知りませんでした。
楽しみ拝見しております。写真だけでもあると昆虫種の同定ができたかもしれないですが、ないでしょうか?(標本が一番ですがお手元にはもうないと思います。)種がわかれば今後の対策にも繋がるかもしれません。
お返事が大変遅れて失礼いたしました!
写真は撮っていません。そもそも昆虫なのかもよく分かりません。
今度見つけたら写真撮りますね。