こんなに真剣な面持ちで!

先日のレッスンのときのことです。私は生徒さんのこんなに真剣な面持ちで音楽を聴く姿を初めて見て、感動してしまったのです。

そのご婦人は、私のチェンバロ教室が始まったころからの長い長いお付き合いです。先週末に開催した発表会を兼ねたパーティーを都合で欠席されたので、レッスンの始めに1曲、パーティーで私が弾いたバッハの曲を弾いて差し上げました。

弾き始めて数小節のあたりで、生徒さんは静かにチェンバロの響板(弦が張ってあって響く板)の所に歩いていきました。チェンバロの音って、そうやって響板の上に顔を突き出して聴くと本当に素晴らしく美しいんですよ。生徒さんはチェンバロの縁に軽く手を置いて、じっと下を向きながら真剣な面持ちで聴き入っていました。

といっても、生徒さんのお顔は譜面台に置いた楽譜に半分隠れるくらいの所にありましたし、私も演奏に集中したかったですから、そんなによく観察したわけではありません。それでも、ただならぬ気配はひしひしと伝わってきます。

ああ、今この瞬間、大切な人の心の深いところに、チェンバロの美しい音とバッハの気高い精神が届いているんだ。

チェンバロはそんなに大きな音が出せませんから、日頃「これからの時代は狭い会場でのサロンコンサートです」なんて強がりを言ったりもする私です。でも、この日の経験で思いました。たとえチェンバロがもっと大きな音が出せたとしても、1人の奏者が1人の聴き手のためにこんなふうに音楽を届けることが、もしかしたら理想的な音楽のあり方なのかもしれないと。

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こんなに真剣な面持ちで!” に対して4件のコメントがあります。

  1. 家合映子 より:

    「1人の奏者が1人の聴き手のためにこんなふうに音楽を届けること」・・このことを心に留め、大切にしたいと思いました。

    1. 八百板 正己 より:

      ありがとうございます。
      鍵盤楽器奏者は一人で演奏することも多いですから、このことの大切さを家合さんも分かってくださるのでしょう。

  2. T.h より:

     いつもの演奏会では見ることのできない響板に描かれた花々や
    細い細い輝く弦などを見ながら
    先生の弾かれるチェンバロの音色に浸ることができました。

     繊細で美しい高音の響き、メロディは出来ることなら両手ですくい上げて
    そーっと持ち帰りたかったです。 演奏しておられる方よりもきれいな音を
    耳にしていたのかも。 思いがけない夢のような幸せな時間でした。

    1. 八百板 正己 より:

      たしかに、演奏者が聞く音は楽譜が邪魔でどうしても曇ってしまいます。チェンバロは聴く人のために演奏する楽器ですね。

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