月に一度のクラヴィコードの日(写真付き)
私のチェンバロスタジオにクラヴィコードがやってきました!
といっても、私の楽器ではありません。借りたのでもありません。
これ、チェンバロ教室の生徒さんの楽器なんです。私はクラヴィコードを持っていないので、この生徒さんはご自分の楽器を自家用車の後部座席に載せて、月に一度のレッスンのたびに持ってくるんです。
まさに携帯用キーボードという感じですね。実際、この生徒さんはこのクラヴィコードを電子キーボード用のソフトケースに入れて持ち運んでいらっしゃいます。まさか中にクラヴィコードが入っているなんて、誰も思わないでしょうね。
楽器が載っている白い台は楽器とは別物です。私が普段パソコンを置いて仕事に使っているものを、レッスンの時だけ流用しています。そう、歴史的にもクラヴィコードには脚が無いものも多かったんです。使う時だけ机の上などに置いて、普段はどこかに片付けておいたというわけです。
クラヴィコードはチェンバロと違って四角い形をしています。なので、あまり複雑な変形をしにくいので、調律が狂いにくいという特長もあります。まあ細かいことを気にしなければ、1ヶ月くらいは調律しなくても使えないことはありません。それで、この生徒さんはご自分では調律をなさらないで、月に一度のレッスンの時に私が調律しています。
クラヴィコードの音はとても小さくて、隣の部屋に行くともうほとんど聞こえないほどです。でもその代わり、タッチで強弱の変化は自在だし、ヴィブラートを掛けることだってできる唯一の鍵盤楽器です。とても表現力が豊かで、魂に直接ささやきかけてくるような不思議な音です。
バッハが最も愛した鍵盤楽器がクラヴィコードだそうです。こういう楽器と毎日のように対話していたからこそ、あのように深く精神性の高い芸術が生まれたのでしょう。
と、言葉だけではもどかしいですので、ビデオを一つどうぞ。もう5年半も前になりますが、この写真の楽器も含めて3台のクラヴィコードを借りてイベントをしました。そのときの映像で、バッハのシンフォニア第5番ホ短調の解説と演奏の抜粋です。
追伸:
クラヴィコードによるバッハ演奏の映像をもっとご覧になりたいですか? それなら、下のボタンをクリックしてください。サンプル映像を23本もご用意して解説も付けてありますから、これをご覧になるだけでもかなりの勉強になると思いますよ。
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私の手許にも、バッハの作品をクラヴィコードで演奏したCDが何枚かありますが、
生演奏を聴いたのはもう何年も前のことになる、繊細を極めるクラヴィコードの音を、
完全に録音できているCDはない気がします。
新型コロナウイルスの流行のため、公開のコンサートもままなりませんが、
いつかまた、クラヴィコードの生演奏を聴きたいです。
ヴァージナルとクラヴィコードは、長方形の形が似ていますね。
そうするとヴァージナルも、チェンバロより調律が狂いにくいのでしょうか?
そう、クラヴィコードは最も録音が難しい楽器の一つですね。
おっしゃるように、ヴァージナルもけっこう調律が狂いにくいんですよ。
>歴史的にもクラヴィコードには脚が無いものも多かったんです。
>バッハが最も愛した鍵盤楽器がクラヴィコードだそうです。こういう楽器と毎日のように対話していたからこそ、あのように深く精神性の高い芸術が生まれたのでしょう。
バッハの遺産目録に「足鍵盤付き2段鍵盤のクラヴィコード」がある、と聞いたことがあります。
壮麗なオルガン曲を作曲する時にも、繊細なクラヴィコードと対話しながら、どのようにすれば最高の表現ができるか、彫琢を極めていたのだと思いました。
モーツァルトが晩年に「魔笛」や「レクイエム」を作曲するのに使ったクラヴィコードが博物館に展示されているそうです。
ハイドンも亡くなる数日前まで病床でクラヴィコードを弾いていたそうです。
人に伝える楽器ではなく、自分と対話する楽器ですね。
バロック時代だけでなく、古典派の時代になっても
クラヴィコードは広く使われていたんですね。