弦が切れたらどうする?(写真付き)
チェンバロの弦も時には切れます。さあ、どうすればいいでしょうか?
東京や大阪など大都市圏なら、チェンバロ製作家に電話すればすぐ来てくれます。でも、私が住む新潟ではそういうわけにはいきません。
かといって、地元のピアノ調律師に頼めることでもありません。実際、アマチュアのチェンバロ所有者さんたちから「自分のチェンバロの弦が切れたけれども、どのピアノ調律師に頼んでも直してもらえなかった」という話は何度も聞いています。
ということで、私は自分で弦を張り替えます。過去40年近くの間に何十本も張り替えましたから慣れたものです。
チューニングピンを緩めて引き抜き、古い弦を外し、ノギスで弦の太さを測ります。一台のチェンバロに使われる弦は太いものから細いものまで10種類以上が使い分けられています。弦の太さを測るのには本当はノギスでは精度が足りなくてマイクロメーターがあるといいのですが、まあ太さの絶対値が精度良く測れなくても、比べる対象が手元に現物として揃っているのですから大丈夫です。
あるチェンバロ製作家からは「太さは測るより指でつまんでみれば同じ太さの感触のものを見分けるのは簡単だ」という話も聞いています。私の場合、けっこう手に汗をかきやすいので、そこらじゅうのスペアの弦を汗で錆びさせてしまう問題がありますけどね。
普通は弦の先端に結び目を作ってあるものをチェンバロ製作家から一式譲り受けて使うのですが、この一番切れやすい太さの弦は、私があまりに何度も何度も製作家に送ってもらうように頼んでいたら、ある時ついにリールのまま届きました。なので、この太さの弦の結び目はいつも自分で作ります。
弦の結び目を作るのには、ある程度の経験と知識が必要です。しっかりと力を込めてきつく結ばないと、楽器に張って調律を始めるとどんどん緩んで、最後には結び目がほどけてしまいます。私も始めのうちは、1本の弦の結び目を作るために2本は失敗したものです。
成功の秘訣は、結び目を作るときに弦を交差させる角度にあるんだと、ある時に気が付きました。それ以来、私はこの作業で失敗したことはほとんどありません。
こんな、どこにも書いてないノウハウを人知れず持っているというのも、気分がいいものですよ。
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チェンバロの弦が切れた時、ピアノ調律師に頼んでも直してもらえなかったというのは、
チェンバロとピアノが、鍵盤楽器であっても、全く違う楽器になっている、という証拠ですね。
パイプオルガンの、あるストップが鳴らなくなったと言って、ピアノ調律師に直してもらおうとしても、絶対に無理でしょう。電子オルガンが故障した場合にはなおさら。
何度も同じようなことを書きましたが、故障した時に、自分の手で修理することができるのは、
木でできたアコースティック楽器ならではだと思います。でもそれには、それ相応の経験を積み、
失敗を繰り返すことが必要だと思います。
「太さは測るより指でつまんでみれば同じ太さの感触のものを見分けるのは簡単だ」
これは、絹糸の太さを判別するような領域の話だと思いました。
人間の指先の感覚は素晴らしいですからね。訓練によって、ガラス面に付いた1ミクロンの傷が分かるそうです。