カラスの羽なんて何に使うの?(写真付き)
大きなカラスの羽を見つけると喜びます。「ラッキー!」
何に使うのか、ですって?
チェンバロの弦をはじく爪の材料にするんです。カラスの羽も小さいのはけっこう落ちていますが、かなり大きいものでないと弱くて使えません。だから、大きな羽を見つけるとラッキーなんです。
チェンバロの爪は消耗品です。今はプラスチック製の代用品が主流ですが、音にこだわるチェンバロ奏者(八百板もです)はそんな妥協はしません。大きなカラスの羽を見つけては拾ってストックしておきます。
カラスの羽の軸を薄く削って、幅2mm弱、厚さ0.5mmくらいの板状に切り出します。大体の大きさに切り出した後は、ジャック(爪を取り付ける木の細長い部品)に装着して実際に音を鳴らしながら、音量と音色を微調整します。
爪の根元が厚いと、無理にひねり出したような品のない音になります。爪の先が厚いと、倍音の少ないポテポテした音になってしまいます。根元も先も薄すぎると、音量が足りません。刃先で爪をなでるようにして削る微妙な作業が必要です。これで音の良しあしが全部決まってしまうのですから、大切な作業なのです。
最終的には、音域にもよりますが、爪の根元の厚さが0.3mmくらい、先端の厚さは0.1mmくらいになるんですよ。
じつは私、こういう作業が好きなんです。子供のころから物作りが好きでした。そんな性格が、チェンバロ奏者としての仕事に役立つなんて、子供のころには考えもしませんでしたけどね。
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おはようございます。
チェンバロが発明された時代、バッハがチェンバロをこよなく愛した時代には、プラスチックなんてなくて、カラスの羽をチェンバロの爪に使っていたわけですから、バッハが弾(ひ)いたチェンバロの音を現代に再現するには、まず道具から始めるわけですね。
バロックヴァイオリンやリュートの弦も、今は金属弦かもしれませんが、音色にこだわる奏者なら、ガット弦を使うはずです。
現代でも、オーボエ・クラリネット・ファゴットといったリード楽器のプロの奏者は、まあさすがに河原に生えている葦を抜いてくるところからはしないと思いますが、リードを自分で削って調整することは必須の技能だと思います。
演奏者が自分で作り、調整することができるのは、木でできたアコースティック楽器ならではのことです。電子楽器の音色が気に入らないからと言って、自分で電子回路を作り直すことはできませんから。
バロックヴァイオリンは必ずガット弦ですよ。音が全然違うので。
リュートの場合は、ナイロン弦で代用されることが多いです。こちらは金属弦に比べるとずっとガット弦に近い物理特性ですが、それでもけっこう違います。
それでちょっと思い出したのですが、和楽器の弦は絹糸が最高だそうです。
やはり今では、筝の弦にはナイロン弦が普及しているそうですが、音色に関しては絹糸の弦には及ばないそうです。
そうすると、ラウテンヴェルクの音色を再現するには、チェンバロの爪にカラスの羽を使い、さらにナイロン弦ではなくてガット弦を張らなければなりませんね。
じつはラウテンヴェルクの弦を何ではじいていたのか、本当のところはよく分かっていないと聞いています。
フランスのバロック後期のチェンバロでは、爪の代わりに動物の革で撫でるようにして音を出すストップが流行しました。
それから、いつの時代のどの国か忘れましたが、薄い金属片で弦をはじく鍵盤楽器もあったそうですよ。
一口に「弦をはじく」と言っても、時代と場所によって、人間の指と爪以外にも、いろいろな物を使っていたのですね。
昔の日本の筝や琵琶や三味線、その他の民族楽器、今のエレキギター、楽器の種類の何倍もの、弦をはじく道具があった、ということがよくわかります。