バッハは宮廷舞曲の踊り方を知らなかったの?(ビデオ付き)

何を隠そう、かつて私自身「バッハは宮廷舞曲の踊り方を知らなかったに違いない」と考えていたんです。

舞曲というものは、普通ならその舞曲の特徴的なリズムを生かして作るものです。メロディーはさまざまなリズムで作っても、特に伴奏は踊りの足の動きに合わせてリズムを刻むものです。だってそうでしょう? ワルツが「ブンチャッチャ」以外のリズムで伴奏されていたら、ワルツらしくないですよね?

で、今日ご紹介するバッハのフランス組曲第5番のブーレ。私も子供の頃はブーレの踊り方なんて知らなかったので、そういうものか、と思ってバッハのこの曲をずっと弾いてきました。でも、ブーレの踊り方を知ってしまったらそうはいきません。左手が全然ブーレのリズムを反映していないんですから。

かつての私はこう思ったものです。

「バッハは生涯ドイツ中部から外に出なかった人だから、本場フランス宮廷でブーレがどんなふうに踊られていたのか、本場フランス宮廷の舞踏会用のブーレがどんなふうに作曲されたのか、きっと知らなかったに違いない。」

 

でも、私が間違っていたんですね。

この曲よりも前、まだ駆け出しだった頃のバッハが作ったチェンバロ用のブーレは、どれもちゃんと踊りのブーレそのものなんです。それに、円熟してからの曲でも、オーケストラ用のブーレ(つまり宮廷舞踏会のような編成のブーレ)では、ちゃんと踊りのブーレそのものです。

つまりバッハは、フランス組曲第5番を書く頃になって、それまで自分も書いてきた当たり前のブーレから足を踏み出して、どこまで普通ではないチェンバロ用のブーレが書けるか? それでいて弾き方の工夫次第でぎりぎりブーレと感じられるような、誰も作ったことのない新しいブーレが書けるか? と挑戦したに違いないのです。

 

音楽のリズムが絡む話題は、文字だけではよく分からないでしょう。この件を解説したビデオをご覧下さい。

 

それを踏まえて、このブーレを始めから終わりまでお聴き下さい。

 

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バッハは宮廷舞曲の踊り方を知らなかったの?(ビデオ付き)” に対して7件のコメントがあります。

  1. aoki より:

    おはようございます。デモに大笑いしました。ワルツとか、ショパンも短調のだとあれで踊る人はないよね、で、様式と割り切るしかないような。。。。と、思っていたのですが、通奏低音分散説はなるほどとおもいました(和音にもどすと踊れるか、いややっぱりもう分散したのをわかっているからそんな曲でおどりたくないかも)。

    バッハが本場の踊り方をしらないわけはない(ケーテンなんかそういう人も来るだろうし)とは思うのですが、あまり需要はなかった(楽譜を作曲してあげる動機がすくない)のかなとは思います。
    バッハにはオペラがないというのも定説ですが、世俗カンタータやマタイがオペラ以上という考え方もあり、一体オペラとは何かといったところからいつか解き明かしてくださるとうれしいです。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      バッハだけでなく、当時のドイツの作曲家には「舞踏会や宮廷バレエのために作曲する」という需要は少なかったようです。だって、金持ちのフランス宮廷ならともかく、ドイツの一領主の身分で劇場を作って維持することなどできなかったからです。その代わり、オーケストラが演奏するためのいわゆる「管弦楽組曲」というジャンルがドイツでは特に流行しました。演奏だけならできるというわけです。

      1. aoki より:

        節約音楽万歳です。カルテットは貧乏に感謝!

  2. Y.M. より:

    やはりバッハは、ブーレに限らず、当世流行していた舞曲の正統的なリズムをよく知っていて、
    その上で新しい試みをしていたと思います。
    パルティータにある、アウフタクトのあるサラバンドとか、「テンポ・ディ・メヌエット」とか。
    「手が3本あれば低音の4分音符のリズムで演奏できる」ということで、ふと思ったのですが、
    もしオルガンで演奏するためのブーレをバッハが作曲したとしたら、
    ペダル(まさに「足」)パートでブーレの4分音符のリズムを刻み、その低音の上で
    右手と左手が自由に鍵盤を駆け巡るような曲を書いたかもしれません。

    1. 八百板 正己 より:

      パルティータはフランス組曲よりもさらに大胆に道を踏み外していますね!
      バッハが若い頃にヴィヴァルディなどの協奏曲を鍵盤楽器用に編曲しましたが、オルガン用の編曲ではペダルも使ってわりと原曲の音の動きそのままなのに対して、チェンバロ用の編曲では左手に分散和音を多用していますよ。

  3. 星野裕子 より:

    聴いていて、無伴奏チェロ組曲の第3番のブーレに似ていると思いました。
    ブーレとはどんな踊りで、どんなステップを踏むのか、等の解説があれば、もっと良かったと思いました。
    最近音楽の友社から、「バッハを弾くためのバロック・ダンス入門」という本が出ているようなので、読んで見ようかと思っています。八百板先生も、バロック時代の舞曲について解説したビデオ教材を作成されておられるようなので、そのうち購入させて頂くかもしれません。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      今回のビデオを編集する段階で、ブーレのステップについての長々とした説明の部分を省いてしまいました!

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