コンサートのお客様、ごめんなさい!

バッハのフランス組曲第2番のアルマンド。今まで20年にわたる演奏活動で何度もコンサートで弾いてきました。そのお客様に申し上げなければなりません。「ごめんなさい!」

先週末はこの曲のビデオ収録でした。アルマンドというのは組曲の最初の楽章で、テンポは遅めと決まっているので、まあ練習は順調にはかどるかな? と思っていた私は、自分がとんでもない勘違いをしている事に気付きました。練習をすればするほど、楽譜どおりに普通に弾いてはいけない特別な場所が次から次へと出てくるのです。

で、最終的には楽譜どおりに普通に弾いていい音はほとんど無くなりました。なんてすごいアルマンドなんだ! 前半と後半両方繰り返してもたった4分半の曲ですが、あまりに中身が詰まっているので一回弾くだけでヘトヘトです。

新型コロナが始まるまで続けていたコンサートというものは、とにかく練習時間確保との戦いでした。暑くもなく雪が降ることもないコンサートシーズンには、特に無謀なスケジュールでたくさんのコンサートを押し込んでいたものです。そうなると、どうしても練習のしわ寄せがアルマンドなどの遅い曲に集中します。「指は楽譜どおりにちゃんと動いているし、それらしいテンポの揺れも加味したし、今回はこの程度で勘弁してもらおう。それより速い曲を何とかしないと、本番までに間に合わない!」といった具合でした。

今にして思えば、そんなふうにして弾いたアルマンドは、バッハが望んだ姿には遠く及ばない、単なるBGMみたいになっていたのではないでしょうか? コンサートにご来場下さったお客様、ごめんなさい! 本当は一回弾くだけでヘトヘトになる濃厚な曲なんです。

今、ビデオ収録は「毎週1つの楽章」と決めて続けています。指の練習が大して必要ない遅い曲でも、一週間たっぷりと吟味できます。新型コロナでコンサートができないという事が、私にとってはバッハの遅い曲のすごさに目覚めるチャンスになっているのです。

 

では、そのフランス組曲第2番のアルマンドをお聴き下さい。

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コンサートのお客様、ごめんなさい!” に対して17件のコメントがあります。

  1. Y.M. より:

    おはようございます。
    コンサートを開けなくなったことで、遅い曲をじっくり吟味することが可能になったとは、
    まさに「禍を転じて福と為す」と言いますか、八百板さんがブログで繰り返される
    「すべての知らせは良い知らせ」ですね!

    1. 八百板 正己 より:

      そのとおりです。いつもブログの内容を覚えていてくださってありがとうございます!

  2. T.h より:

     おはようございます!

    鍵盤が見えたり、手の動きなどが見えたりすると私には曲の感じがより一層伝わって来るように思います。
    以前お聴きしたかもしれませんが、すみませんすっかり忘れています。
    今見える、聴こえるこの演奏が一番です。

    1. 八百板 正己 より:

      ありがとうございます。
      私も、手の動きが見られることを意識して、練習のときに「無駄なく美しく動かせているか?」と自問しています。動きが美しくなれば、そこに音の美しさも宿ると思っています。

  3. 林 豊彦 より:

    最近聴いたチェンバロ演奏で最も印象深く、かつ心に滲みる演奏でした💕

    1. 八百板 正己 より:

      そんなふうに褒めていただけるとは! ヘトヘトになるまで練習した甲斐があります。

  4. 家合映子 より:

    “バッハの遅い曲のすごさ”ーそれは実感というか、同感です。

    1. 八百板 正己 より:

      ありがとうございます。
      家合さんがお弾きになるバッハのオルガン曲では、遅い曲ほどすごいともいえそうですね。

      1. 家合映子 より:

        内容の豊かさ、というか、一つの音の、実はそこにある深い意味合い、というか、分かっても分からなくても、でも楽譜にははっきりと書かれてはいない意味合い(?)を発見した時、嬉しいですし、それを表現し、また聴いて頂きたいという気持ちはあります。まだまだ、先生のおっしゃっておられることを理解するには遠い私ではありますが…。

        1. 八百板 正己 より:

          本当にそうですね。「楽譜にははっきりと書かれてはいない意味合いを発見した時、嬉しい」まさに同感です。それを聴いて頂きたいという気持ちが演奏活動を支えるエネルギーですよね。

          1. 家合映子 より:

            先生、ありがとうございます。(゜))<<。

  5. 小松優子 より:

    毎朝ありがとうございます。
    無料配信して頂いていますが、振り込みたいので、振り込み先を教えて頂けると幸いです。大変恐縮です。

    音楽拝聴とともに、音楽への心構えが、今の私の心につきささりました。
    ピアノ科卒でない私(先生と同じく普通大学卒業)がピアノ教師をしている葛藤。自信のなさを乗り越えるために、アンサンブルのレッスンやコンサートなど、無理を重ねて30年やってきました。
    が、どうしても到達しない高い壁。恩師には「理想が高すぎるのでは?」とたしなめられますが、そんなことありません。音楽のレベルに到達してない自分が悪いのです。
    今まで何をやっていたのか。先生のお言葉を借りれば「音楽を気晴らしにやっていた」「BGMの音楽をやっていた」と気づきました。
    アマチュアの延長では、いつまで経っても演奏の質は変わりませんね。
    今後弾き続けるかどうか、悩んでいるところに一石を投じて頂きました。さらに自問して結論を出したいと思います。
    プロの厳しさを教えて頂きありがとうございました。

    1. 八百板 正己 より:

      小松優子様。
      大変ありがたいお言葉に感謝いたします。
      お話の続きは私信でお送りしますので、そちらをご覧下さい。

  6. S.H より:

    ステキな演奏をありがとうございます。
    八百板様の生の演奏は何度か聴かせていただきましたが、いつも喜びに溢れていて、忘れられない素晴らしい演奏でした。普段は県外に住んでおり、なかなか八百板様の演奏を聴くチャンスがないのですが、その日を夢見て、ブログで拝聴させていただきます!

    1. 八百板 正己 より:

      私の生演奏をお聴きくださっていたとは、どうもありがとうございます!
      今コロナでコンサートができない代わりに、こうして遠くにお住まいの方とも繋がることができるのは嬉しいです。

  7. 小林まどか より:

    これまで聞いたフランス組曲の中でも、最高に感動いたしました。
    イングリット・ヘブラーの演奏も好きでしたが、八百板先生の演奏の調べには「言葉」があります。魂に語りかけてくださるのです。
    ありがとうございます。

    1. 八百板 正己 より:

      嬉しいお言葉をありがとうございます!

      「バロック音楽は語る音楽である」と言われています。
      私はいつもそういう演奏をしたいと心掛けています。

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