無伴奏ヴァイオリンのガヴォット
「ああ、やっと出会えた! こんな所にいたのか!」
私が中学生のときの感動的な再会の瞬間です。再会といっても、相手はバッハのガヴォットなんですが。
「バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」と聞いて「ああ、あの曲ね」と微笑む人はいますか? これは、バッハの無伴奏ヴァイオリン曲の中でも一番くつろいで聴ける、人気の高い曲です。バッハはものすごく深遠な曲も書きましたが、こんなに開放的な曲も同じように書けたのですね。中でも第3楽章の「ロンド形式のガヴォット」は、どなたもきっとどこかで耳にしているはずの有名な曲です。といっても、文字だけでは分かりませんよね。電話でなら口ずさんで差し上げるのですけれど。
小学生の頃の私もどこかで何度も耳にしていました。このメロディーが聞こえてくると「あ、この曲だ。もっと聴きたい!」と思うのですが、大抵はテレビのコマーシャルか何かなのですぐに消えてしまうのです。
一度だけNHKの音楽番組で流れて、字幕に「バッハのパルティータよりガボット」みたいに書いてあった記憶があります。パルティータって何? バッハのガボットって言えばこの1曲だけなの? 親に聞いても全然分かりません。確か小学4年生くらいだったと思うので、自力で図書館で調べるなんていうこともできません。
学校の先生も全く当てになりませんでした。今と違って担任が音楽も教えていた時代です。担任は音楽が全くダメでした。8分の6拍子の歌を、授業参観の日に親たちの前で4分の4拍子として子供たちに歌わせる有様です。授業中に何度「先生、拍子が違います!」と叫びたくなったことか。
この曲の正体を知ったのは中学に入ってからでした。そろそろ自分でいろいろ調べ物もできるようになり、「バッハは、伴奏なしの1つのヴァイオリンのために、4声のフーガを作曲した」という記述を読んで興奮しました。そして、バッハの無伴奏ヴァイオリン曲全集のレコードをいきなり買って、その最後に収録されていたのがこの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」でした。
ああ、やっと出会えた! こんな所にいたのか! でも偶然です。私がそのレコードを買ったのは無伴奏のフーガが目当てだったのですから。しかもその頃には、自分がずっと気にしていた曲に「パルティータ」という単語が付いていたこと自体忘れていました。そもそも、伴奏なしのヴァイオリン1つだけで弾くのが省略なんかではなく、正しい編成だったということもこのレコードで初めて知ったのです。手がかりが全くない中で、本当に偶然の出会いでした。
私は普段、後ろを振り向きません。ノスタルジーに浸っている時間があるなら、まだ弾いていないバッハをもう1曲練習できるんですから。でも時々はこうして子供時代のことを振り返ってみてもいいですよね。あの頃はバロック音楽との出会いは本当に一つ一つが偶然でした。先に立って導いてくれる人もいない中で、手当たり次第に聴きあさっていたんですから。ずいぶん遠いところまで来たものです。
追伸
そんな思い出の曲ですが、私は生演奏で聴いた経験は数回しかありません。それも大抵はガヴォットだけをアンコールか何かで弾くような状況です。きちんとパルティータ全体のストーリーを組み立てて、その中の絶妙な位置付けでガヴォットの素晴らしさを再認識させてくれるような機会には恵まれませんでした。
今回、7月13日の風岡優ヴァイオリンリサイタル「バッハのヴァイオリン独奏曲全15曲 第2回」の舞台で風岡さんが演奏してくださる無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番の演奏を、私自身がとても楽しみにしているのです。バッハの無伴奏全曲演奏を今までに3回もなさった風岡さんですから、私が気づいていないたくさんのことを気付かせてくれる舞台となることでしょう。
ご予約受付中です。会場でご一緒にこの名曲を堪能しましょう。
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ユチューブで「バッハ無伴奏ヴァイオリンのためのパルテイータ第3番」と打ち込んだらいきなりガボットの演奏が7,8人ズラーっと出てきたので驚いてしまいました。 有名なのですね!
曲を聴いたら「ああ、この曲か・・・」と思いました。曲名を覚えないでメロデーだけ聴いていたようでした。調子にのって10人近くの方の演奏を聴きました。スタジオAで聴いたらどんな風になるのかなあ。
お聴きしようかな?と思っているところです。
コメントありがとうございます。
YouTubeを使い慣れていらっしゃるようですね。「BWV1006」で検索すると、海外でアップロードした演奏も全部検索されるので、もっと世界的に聴かれている良い演奏が上位に並びますよ。
スタジオAの豊かな残響はきっとヴァイオリン1つだけで弾いているとは思えない、充実した音の絡みが味わえることでしょう。ご都合が付きましたらぜひ!