10分間に55回(ビデオ付き)
ああ、大変でした!
スウェーリンク作曲の半音階的ファンタジア!
なんて言っても分かりませんよね? いいんです。分からなくていいんです。ただ、私はこの大仕事を終えた充実感に浸っていて、少しその話を聞いていただければと思って。
「半音階的ファンタジア」というくらいですから、半音階が使われます。使われる、なんていう生易しいものではありません。冒頭に提示される半音階主題が55回も繰り返される異常な曲です。
だいたい半音階なんていうものは、21世紀の今聞いても気分のいいものではありません。それを今回のビデオ収録では当時の古い調律法(中全音律)で楽器を調律したものだから、半音階が猛烈にいびつで気持ちの悪い響きがします。それを延々と10分間、55回も繰り返すんです。
じつはこの曲、私は中学生の時からレコードで知っていました。「こんな曲の楽譜はどうやったら手に入るんだろう?」と思いながら、いつか弾いてみたいと憧れていました。
その願いはたしか18歳くらいのときに叶いました。スウェーリンクの鍵盤音楽全集の楽譜を手に入れて、家で一人で弾き散らかしていました。
やがてプロのチェンバロ奏者になり、時々はコンサートのプログラムに混ぜたりして弾き続けました。異常な曲ではありますが、10分間聴き続けてさえもらえれば最後はけっこう華やかな演奏効果で拍手ももらえる曲なんです。
新型コロナでコンサートができなくなって、私はバッハを解説するビデオ講座の制作と販売に全力を傾けました。スウェーリンクなんていうマイナーな曲はおあずけでした。
それでも、コロナ発生から4年間でピアノ教室で弾かれるバッハの主要な作品をほぼカバーしたこともあって、そろそろスウェーリンクなんていうマイナーな曲を弾きたくなったというわけです。
で、何年ぶりかで楽譜を引っ張り出してきて練習を始めたのですが、もしかして大変なことに手を付けてしまったのではないか? という心配が持ち上がってきました。
この4年間、毎週自分の演奏をビデオ収録するということを繰り返した結果、私自身の基準がずいぶん高くなっていたんです。コンサートと違って、「曲の最後の部分さえちゃんと弾ければ拍手がもらえる」なんて甘い言葉は許されません。楽譜は書き込みで真っ黒になっていきます。弾けたと思ったところも、また片手ゆっくり練習に逆戻りです。
この曲の当初の収録予定は5月下旬でした。それが、何度も何度も何度も延期して、先日やっと収録できた次第です。ただでさえ曲が長いうえに、始めから終わりまでほとんど4声の対位法。解説すべきことが大量にあって、「以下同様です」でずいぶん飛ばしたのに、結局1時間52分のビデオになってしまいました。
では、その長大なビデオから、最後の通し演奏の部分をどうぞ。
あ、そうそう。当時の調律法で半音階が猛烈に気持ち悪いので、今体調がすぐれない人はご自分の責任において聴くか聴かないかを判断してください。私は責任負えません・・・
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おはようございます。
この曲は手許にCDがありますが、中全音律での演奏は初めて聴きました。
中全音律とバッハの時代の調律法の違いはよく知らないのですが、中全音律による
半音階の気持ち悪さが、最後のピカルディ終止をいっそう引き立てている感じがしました。
私は中全音律のオルガンで弾いたCDを持っています。半音階が減衰しないので、気持ち悪さが半端じゃないですよ。