ずーっと悩んでいました(ビデオ付き)

あ、ご心配なく。人生に悩んでいたわけではありません!

悩んでいたのはバッハの曲の解釈です。インヴェンションの第9番、ヘ短調。子供も弾いている基本的な曲なのに、私はつい最近まで、この曲をどう弾いていいのか、全然自信が持てなかったんです。

理由は、この曲にたくさん付けられた「長いスラー」です。

曲を通して一貫して同じ主題なのに、スラーが付いたり付かなかったり。規則性や理由を読み取ることができなくて、途方に暮れていました。

「どうしてスラーが違うのか? だからどう弾けばいいのか?」

そこで、バッハの自筆譜をダウンロードして見てみました。

そうしたら、なおさら混乱しました。

私が持っている楽譜(もちろん権威ある原典版です)では長いスラーでも、自筆譜では所々もっと短いスラーだったり、2つの短いスラーに分かれたりもしていました。持っている楽譜に書いてあるスラーが、自筆譜には無いということもありました。ますます規則性を読み取ることはできません。

 

「もしかしたら、何らかの規則性を反映したのではなくて、刻々と変わる感情や表情に応じて、スラーをさまざまに変えるのがバッハの意図だったのでは?」と気付いてから一気に進展しました。

権威ある原典版でさえバッハの多彩なスラーを画一的に長いスラーに統一してしまったのも、「同じ主題には同じスラーが付くはず」との思い込みがあったのかもしれません。

結果として今回の私の演奏は、普通に聞かれるインヴェンション第9番とは全く違う演奏になりました。本当にこんなに違っていいのか自信はありません。でも、バッハが自筆譜に書きこんだスラーを一つも無視せずに演奏に反映するなら、今の私にはこの答しか出てこないのです。

遅すぎるテンポも批判を受けるのを覚悟の上です。この曲をこんなに遅く弾いた演奏を私は聞いたことがありません。でも、バッハの時代の「ヘ短調」というのは、「絶望や苦悩の極み」を表すようなときだけに使われる、ものすごく特別な調性だったんです。

さんざん悩みとおした末の演奏を、どうぞご覧下さい。あなたはこの演奏をどう思いますか?

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ずーっと悩んでいました(ビデオ付き)” に対して4件のコメントがあります。

  1. aoki より:

    今海外の演奏をざらっとみてみると2分18秒くらいのが多いのですが
    https://www.youtube.com/watch?v=kaBBy_kn3l0
    先生のとほぼ同じのもありました
    https://www.youtube.com/watch?v=5Rz_He_00M4
    インベンションは古楽の前から子供用ということでとにかく早く(間違えないようにとか、うまく見えるようにとか、競争とか、いろいろな動機はあると思うのですが、結論として)なる傾向があるようなので、普通に早めになっていると思いますが、オリジナルはこのくらいだったかもしれないという気がしてきました。遅くてうまくひくのはかえって難しいでしょうけど大きな手の人がほわっとブリュートナーとかで弾くと素敵そうです。

    1. 八百板 正己 より:

      ありがとうございます。遅い演奏もあるんですね。

  2. Y.M. より:

    現代のピアノ教室ではインヴェンションは、aokiさんのおっしゃるように
    「早く(速く)、間違えないように」演奏するための練習曲、と取られているようですが
    そもそもバッハが「なによりもカンタービレの奏法を身に付けること」と
    表紙に書いたように、カンタービレの奏法のための練習曲だったのでしょう。
    あるいは「バッハのユーモア」にも通じるところがあるかもしれませんが
    「一つのフレーズに、スラーのつけ方は1通りだけではない」ということを
    弟子たちに教えるために、スラーのつけ方をいろいろに変えたのかもしれませんね。

    1. 八百板 正己 より:

      複数の声部を同時にカンタービレに奏する、というところが難しいですけどね。

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