バッハの頭の中を復元する

あ、解剖学の話題ではありません! バッハの脳の復元模型を作ったりはしません。

そうではなくて、装飾音の話です。もう少し詳しく言うと、装飾音を取り去った、バッハが始めにイメージしたメロディーの原型を復元してみるという話です。

 

バロック音楽は、その前後の時代と比べて、というか、西洋音楽の歴史全体を見渡しても、「装飾音がとても発達した時代」ということができます。バッハの曲だってそうです。

で、そのバッハの曲を弾こうとしたとき、私たちは目の前にある楽譜を見て「ここにこの装飾音が書いてあるからそれを弾く」と当たり前に処理してしまいがちです。でも、バロック時代の装飾音はそういうものではありませんでした。装飾音は演奏者の裁量に多くの部分が任されていたのです。

ですから、バッハの曲を生き生きと演奏しようと思ったら、楽譜から装飾音を一旦取り去ってみましょう。そして「装飾音が書いてない楽譜を見ながら自分の責任で装飾音を加える」という作業をしてみましょう。取り去った装飾音(つまりバッハが指示した装飾音)と同じものを弾くのでもいいんです。ポイントは「装飾音が書いてない楽譜を見ながら」という所です。

きっと「こんなにたくさん装飾音を加えてもいいんだ!」という新鮮な感じがすると思います。きっとそのときのあなたの演奏は、今ここで生まれたばかりのような生き生きとした演奏になっていることでしょう。

 

と、これで話が済めばいいのですが、そうはいかないんですね。

バロック時代の装飾音には、トリルや前打音のように「記号」で表す装飾音(フランス式装飾音)だけでなく、細かい音符で表す装飾音(イタリア式装飾音)がありました。この「イタリア式装飾音」の場合、装飾音を取り去る作業はかなり難しいんです。

例を挙げましょう。楽譜に16分音符で「ドレミファソラシド」と音階が書いてあったとします。その装飾音を取り去った原型は8分音符からなる「ドーミーソードー」なのか? 4分音符のオクターブ跳躍「ドーーードーーー」なのか? それとも1個の2分音符「ドーーーーーーー」なのか?

つまり、細かい音符で表されたイタリア式装飾音を取り去るには、ある程度の作曲の知識が必要になるんです。

 

と、これで話を終わりにするような無責任なことはしません。バッハの有名なイタリア協奏曲の第2楽章について、はじめの10小節目までのメロディーを復元したビデオをご用意しました。バッハの頭の中を復元してみて、そこに即興的に装飾音を加えてみると、普通に聴かれるこの曲の演奏とはずいぶん違った姿が浮かび上がってきますよ。

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