県外のパイプオルガンを調律(写真付き)
お隣の山形県まで、パイプオルガンの調律に行ってきました。
オルガンが置かれているのは、こーんなに素晴らしい教会です!
カトリック鶴岡教会天主堂。明治36年に建てられた国の重要文化財の建物です。
そしてその天主堂に備え付けられたパイプオルガンがこれです。
このオルガンは、2003年に山形県内在住の製作家によって作られたんですよ。
写真の右下のアーチをくぐって、らせん階段で3階相当の高さまで昇るとオルガンがあります。
ずいぶん長いこと調律されてこなかったとの事で、かなり狂っていました。けれども、作られてからまだ20年も経っていないので、パイプの状態はとてもいいです。重低音の16フィートを含む6ストップのオルガンで、調律には2日かかりました。
パイプの状態がよかったので、音を合わせる作業自体はとてもスムーズでした。しかるべき所を少し伸ばしたり縮めたり、少し広げたりすぼめたり。ストレスなくピタッと音が合ってくれるのは気持ちがいいですよ。
それより大変だったのは、パイプに手が届くところまで行くことでした。元々ある建物に、どうにか収まるように後から作られた楽器です。建物の形に合わせて苦労してあちこちにパイプが設置されています。そして、ほとんどのパイプが1箇所に集められている場所に行くのに、中腰にならないと通れない隙間を入って、体をよじらないと通れない隙間にある階段を3段上がって、頭をぶつけないように気をつけながら180度向きを変えて(これで目の前にパイプがきます)、片方の手でオルガンの枠につかまって体を支えながら、もう片方の手をかなり伸ばして、やっとパイプに手が届きます。
もし助手がいてくれれば、助手に鍵盤を押してもらえるんですけどね。そうすれば私は目の前に並んでいるパイプを順に調律するだけで済むんです。でも私一人ですから、まず鍵盤に小さな重りを乗せて音が鳴り続けるようにして、それから上記の苦労をしてパイプの所に行って、パイプの先端をいじって音の高さを調律します。また上記の苦労の逆をして鍵盤の所に戻って、重りを移動させて別の音が鳴り続けるようにして、また苦労してパイプの所に行って調律します。
パイプの数はざっと300本以上あるので最低でも300往復ですが、そう甘くはありません。あるパイプを一度合わせたと思っても、他のパイプを合わせてからそれとの関係を確認すると、たいてい少し調整し直す必要がでてきます。たぶん2日間で500往復はしたでしょう。ふくらはぎが筋肉痛です!
予定していた2日間で順調に調律は終わりました。教会の方々は「以前の美しい音が戻ってきた」と喜んで下さいました。
追伸:
オルガン調律とは直接関係ありませんが、山形から帰ってきた翌日に収録した演奏をお聴き下さい。2ヶ月以上にわたって1楽章ずつ収録してきたバッハのフランス組曲第5番の最終楽章、ジーグです。
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先生はパイプオルガンの調律もおできになるのですね!驚きました。
いまネットでしらべたら山形には鶴岡教会、こちらが酒田のビルダーさん、酒田教会は平塚にいるビルダーさんというように、(海外からどーんと輸入ではなく)国内生産型で設置している例が多いのだと感心しました。調律は基本はビルダーさんがするのかとおもったらそうでもないのですね。
よほど小型のオルガン以外は、設置する場所との兼ね合いでその都度注文生産になります。ですから、話が通じやすい国内の製作家に頼むと心強いのでしょう。
オルガンの調律は、設置したあとしばらくは製作家がするでしょうけれど、いつかは製作家の手を離れなければなりません。そして、30年とか50年とか経てから全面的にオーバーホールするような時にまた製作家に頼むことになります。
こちらの教会のオルガンだったのですね!
オルガンは建物と一体になっていることが多いですが、
このオルガンは後付け、ということは
かなりのアクロバットなやり方で
設置したのでしょうね~!
作るのも大変だったでしょうが、
調律もこれまた大変ということですね。
美しい音が戻ったパイプオルガン、
どんなにステキな演奏ができることでしょうか。
調律おつかれさまでした!
作ったら動かせない楽器というのはオルガンだけですからね。
最後に試奏したときに、私も美しい響きに包まれて幸せでした。
「2日間で500往復も」!
大変なお仕事でしたね。
「鍵盤に重り」などあまり考えつきません。大変な苦労と知恵の結集だったと
思いました。この教会には黒いマリア像もあるのだそうですね。
いつか演奏会が出来たらいいですね。
鍵盤に重りを乗せるのは、助手を頼む時にも使っていますよ。
同じキーを何分間もずっと押さえたままということを何時間もしていると疲れますからね。
久しぶりにメルマガ読みました。
高校同期で秋田在住のHOです。
コロナ大変と思いますが生き抜いてますね。すごいな。
にかほ市の象潟公会堂を思い出しました。
オルガンはないですが芸大のピアノの先生のコンサートに
一度行ったことがあります。
おお、久しぶり!
何があってもコロナなんかのせいにはしていられませんよ。
鶴岡教会天主堂の建物は、新潟市の県政記念館の外観にちょっと似ていますね。
オルガンの調律、お疲れ様でした。鶴岡教会さんには、専属とまではいかなくても、オルガンをよく弾かれている方々はいらっしゃるのでしょうか。調律作業のアシスタントをして頂けたら良かったのではないかと思いました。
古楽の鍵盤楽器奏者の方々は、チェンバロはもちろん、オルガンも弾かれる方が多いようですが、どこでどうやって学ばれているのでしょうか。チェンバロと違って個人所有は難しい (ある意味チェンバロも難しいですが) ので、楽器に触る機会を持つのもあまりないのでは、と思いますが。。。
ちゃんとお金を頂いて仕事として引き受けたからには、自力で何でもしますよ。それに、鍵盤を押すだけの短調な作業を10時間も付き合わせては申し訳ないです。
私もですが、オルガンを勉強する人は、自宅では別の楽器で練習して、時々どこかのオルガンを借りて練習の成果をオルガンで試す、というやり方をします。
aokiさんのコメントを読んで気が付きましたが、オルガン製作家は「メーカー(作る人)」じゃなくて「ビルダー(建設する人)」なんですね。
星野さんのコメントに関してですが、バッハの時代には、ペダル付きチェンバロあるいは2段鍵盤のペダル付きクラヴィコードという楽器があったので、オルガン奏者は自宅ではそれらで練習していたのでしょう。
マリー=クレール・アランの生家には、本物のパイプオルガンがあったそうです。
才能だけでなく、恵まれた環境があってこそ、オルガン演奏の大家として名を成したのでしょう。
バッハの遺産目録にある「3つのクラヴィーア」というのが、2段鍵盤のペダル付きクラヴィコードのことではないか、と言われていますよ。