じつは手抜きなんです(写真付き)

これが手抜きだということは、チェンバロを持っている人にしか気付かれないかもしれませんけれど。

すこし前のことです。レッスン中にある音がやたらと「ジャラジャラジャラ」と共鳴するので、ちょうど生徒さんがいらっしゃるのでキーを押すのを手伝っていただいて、共鳴防止を施しました。共鳴防止なんて言っても、ただティッシュを小さく切って挟んだだけですが。

この音を弾いた時にだけ変な共鳴がするのはもう少し前から気付いてはいたのですが、ごくわずかなことだったし。それに私一人だとどの弦が共鳴しているのかを調べるのに、鍵盤が遠くて手が届かないものですから。ところが梅雨で楽器の調子が変わって、ちょうどレッスンのときにすごく派手な共鳴が発生したので、3分くらいで済む対策をした次第です。

写真の真ん中を上下に横切っているのが「ブリッジ」という部品で、左下から伸びている弦の振動を響板に伝えます。ブリッジから先の弦、つまりこの写真でいう右上方向に伸びた部分は、ただその弦を楽器本体に留めるだけの役割で、この部分は演奏には使いません。指でかき鳴らしてみると「シャリシャリシャリ」と美しい効果音のようなものは出せますが、調律ができるわけでもないし、その時演奏している音とたまたま共鳴する弦があると楽器の音が一層美しくなるので、よほど不都合が起きない限りは鳴るに任せたままにしておくものです。

その、よほどの不都合が起こってしまったのは、じつは私の手抜きのせいなんです。

写真をご覧いただくと、私がティッシュを切って挟んだ弦が、ほかの弦と並行でなくて交わっていますよね? すべての弦がちゃんと並行に張ってあれば(それが本来の姿ですが)、弦どうしが接触しませんからそんなに極端に耳障りな共鳴は起こらないのです。この、ほかの弦に交わるように弦が張ってあるのは、ずいぶん前に弦が切れてしまったときの応急処置なのです。

弦が切れるときというのは、ほとんどがコンサートの開演直前の調律中か、途中休憩での調律中です。強い照明が当たって、お客様の息で湿度も不安定になって、しかも時間がなくて焦って調律をしていると「バーン」という派手な音を発して弦が切れるのです。多いときで年に数回起こります。

コンサートの本番で新しい弦に張り替えることは避けなければなりません。新しい弦は引っ張られることに慣れていないので、音程が安定するのに何日もかかるからです。そこで、切れたその弦をそのまま張り直す応急処置をすることになります。弦は長さの真ん中で切れることはなく、弦を巻きつけてあって調律時に回すピンのところで切れると決まっています(調律でピンを回したり戻したりを何百回と繰り返すことで、弦の巻き始めの部分は曲げられたり伸ばされたりを繰り返して金属疲労が起こるのです)。なので、このピンに巻きつける分の長さだけ稼ぐことができれば、切れた弦をそのまま張り直せるのです。

写真のように弦を斜めに張り直すと、楽器本体に留める所までの距離を15cmくらい短くできます。そうやってコンサートは何とかしのいで、コンサートが終わったら早めに新しい現に張り替えて、何日か頻繁に調律しながら安定させるものなのです。

それを、コンサートが終わってもいつまでも応急処置のまま放置していた私の手抜きというわけでした。

と言いながら、じつはまだ新しい弦に張り替えていません。新型コロナのためにコンサートの類が全部できなくなったので、不特定多数のお客様の目に触れて恥ずかしい思いをすることもないと思うと、なおさら「このままもう少し使い続けようか」という気になってしまうのです。コンサートの代わりとしてのビデオ収録がこれからも毎週ずっと続くので、何日も調律が安定しないのは困るなあ、というのもあります。さあ、この応急処置はいつまでこのままなのでしょうか?

 

追伸
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