めったに見られないレッスン風景(写真付き)

私のお城「見附チェンバロスタジオ」にて、チェンバロ教室の生徒さんが珍しい鍵盤楽器を弾いていますよ。

手前に写っている楽器は、この生徒さんの持ち物である「クラヴィコード」です。乗用車の後部座席やトランクに積んで簡単に運べるので、レッスンのたびに持ってきていただいて、ついでに私が調律もしてあげています。チェンバロ教室のレッスンにマイ楽器を持参する人なんて、日本中探しても殆どいないでしょうね。私もクラヴィコードが欲しい!

奥の方で生徒さんが弾いている楽器は私の「ヴァージナル」です。チェンバロの仲間でも、16~17世紀の古い時代に愛用されました。オランダの画家フェルメールの絵画によく描かれたことでも知られています。

この生徒さんは今、16~17世紀のイギリスの鍵盤音楽、通称「ヴァージナル楽派」に夢中なのです。16世紀末ごろの作者不詳の前奏曲をクラヴィコードでレッスンした後、せっかくヴァージナルがあるのだからと、ヴァージナルでも弾いてみてその独特の響きを楽しんでいただいているのです。

クラヴィコードも滅多に見られない鍵盤楽器ですが、ヴァージナルもなかなか見られませんよ。何しろ、バッハには使えないんですから。音域はどうにか足りるように少し拡張してありますが、音の性格がまるで違うんです。バッハに使えないチェンバロ族の楽器をわざわざ買おうとする人なんて、私のように2台目3台目の楽器として買う人以外にいませんからね。

でも、この16世紀末ごろの独特の音色と、16世紀末ごろの調律法「中全音律(別名ミーントーン)」による純正3度の虜になると、もう抜け出せません。この時代の鍵盤音楽は、この時代の楽器とこの時代の調律法を伴ってこそ、その美しさが本当の意味で明らかになります。

芸術に関しては「新しいものが良いもの」とは限りません。その時代その時代に、それぞれ最高の境地に達した完成形があったのですね。

 

追伸:
私のチェンバロ教室には、年に数回という不定期で遠く県外からいらっしゃる生徒さんもいます。一回限りのレッスンも承ります。遠方にお住まいの方も、新潟観光を兼ねていらっしゃいませんか?

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めったに見られないレッスン風景(写真付き)” に対して6件のコメントがあります。

  1. ふらっと より:

    はじめてコメントさせていただきます。
    私はパイプオルガンとチェンバロの演奏が好きですが、
    どちらも本物の楽器はもっていません。
    電子オルガンで何とかしのいでいます。
    何かタッチの練習ができる楽器を、と願っています。
    それで、クラヴィコードはどうかな、と思いました。
    クラヴィコードを手作りできるキットがあるようですが、
    それって、音や品質はどうなのでしょう?
    もしご存知てしたら、
    ぜひご意見をお聞かせ下さい。

    1. 八百板 正己 より:

      ふらっと様
      コメントありがとうございます。
      タッチの訓練にクラヴィコードは最高です!

      けれども、クラヴィコードのキットは(それが私の知っている最も名の知れたキットのことだとすれば)、音は満足できるレベルではありません。なぜなら、音にとって非常に重要な「響板を薄く削る」という工程がアマチュアの手に負えるものでなく、そのキットでも省略されているからです。あのキットはあくまでも工作を楽しむものとお考えいただくと良いでしょう。

      1. ふらっと より:

        そうなんですね。詳しいお話、ありがととございます。やっぱりプロの仕事は凄みがありますね。
        では、キットのクラヴィコードは、音のことはおいておいて、タッチの練習用としては、使えますか?というのも、とにかくタッチの練習ができないのが、日頃の悩みになっているからなんです。

        1. 八百板 正己 より:

          結論から言えば「使えません」と言わざるを得ません。

          なぜなら、タッチの練習とは「この弾き方で美しい音が出るか?」を常にフィードバックしながら行うものだからです。(音楽に限らず、「弘法筆を選ばず」という言葉は、弘法のレベルまで到達した人にだけ当てはまることです。)

          例のキットは、音が良くないだけでなく、タッチそのものも良くありません。キットを説明書どおりに作ると、弦の張力が普通のクラヴィコードよりもずっと高くなってしまい(早い話が弦が太すぎるのです)、まるで固い金属棒をたたくようなタッチになります。タッチの練習が目的なのに、タッチの練習にならないのです。

          以前私がそのキットの完成品の演奏を頼まれたときに、弦の張力を適正にするためにピッチを3度くらい下げてみました。そうしたら、あまり美しい音とは言えないながらも、何とかクラヴィコードらしいタッチで、それらしく演奏することは可能でした。あくまでタッチの練習用ということでしたら、こういう使い方ならできます。ただ、そのためには本来のちゃんとしたクラヴィコードのタッチと音を知っておく必要がありますね。

  2. ふらっと より:

    なるほどなるほど。
    とても納得できました。
    詳しいお話を伺わせていただいて、本当にありがとうございます。
    タッチの練習が練習にならない理由がよくわかりました。
    美しい音が出ないのに、練習になるはずがないわけですね。

    ところで、このたび
    クラヴィコード云々を調べていて、
    こちらのサイトを初めて知りました。
    ここには、バッハの演奏法など、
    目からうろこな話がたくさんあり、
    また美しい素敵な演奏をたくさん披露してくださっていて
    とてもよい勉強&鑑賞をさせていただいております。
    そのことにも、感謝しております。
    美しい音がでる本物の楽器との出会いを夢見つつ、
    これからもこのサイトを拝見しますね。
    ありがとうございました。

    1. 八百板 正己 より:

      お役に立てて何よりです。
      これからもどうぞよろしくお願いいたします。
      何でもお尋ねください。

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