バロック音楽と強いコントラスト(写真付き)
お隣のツタが真っ赤に紅葉しています。スタジオの看板と対照的です。
お天気のほうも、さっきまで強い雨だと思ったら晴れ渡ったりと、ちょっとの時間ですごい変わりようです。そうでした、冬型の気圧配置になると雪国はこうなるんでしたね。
衣類も一気に冬支度です。上着やら、セーターやら、暖かい下着やらを出しました。家じゅうのストーブも出し終えました。スタジオの除湿機も片付けて、これからは加湿が必要になります。この一週間くらいで、私の周りのものがかなり入れ替わりました。
ちょうどこの写真を撮ったとき、私は来週のコンサートで弾くヘンデルの組曲ヘ長調HWV427を練習していました。その曲は「遅い、速い、遅い、速い」の4楽章からできています。「組曲」というのに舞曲がひとつも入っていないという、実質的にイタリア由来のソナタだという話題の曲です。遅いか速いかのどちらかだというのは、「コントラスト」がバロック芸術の理念の一つであることによります。
さてこの曲、子供のときからピアノで弾き散らかしていた長い付き合いですが、チェンバロで弾くようになってからも30年になります。チェンバロで弾く場合には楽章ごとに音色も変えてコントラストを強調します。だいたい遅い楽章を一組の弦で静かな音で弾き、速い楽章を複数組の弦で華やかに弾くとまとまるものです(3組の弦を持つ私のチェンバロなら「弱、強、弱、最強」の並びです)。この曲もしばらくは何も考えずにそう弾いてきました。それが、ある時から手持ちのCDの影響を受けて第3楽章も2組の弦で力強く弾くようになって、それからもまた何も考えずにそう弾き続けてきました(私のチェンバロなら「弱、強、強、最強」の並びです)。遅い中間楽章にしては4声の対位法がしっかりしていて、力強い音色で弾くとなかなかカッコいいのです。
ところが、今日は赤と青の鮮やかなコントラストを目にしたものだから、ふと第3楽章と第4楽章のコントラストを思い切り付けてみたくなったのです。つまり第3楽章をとても繊細な上鍵盤で弾くのです。バッハの平均律クラヴィーア曲集の中にも、静かな音で弾きたいフーガがありますが、そんな感じがするかなと思って。
すると、バッハのそういう曲とはまた全く違った、今までに経験したことの無いような不思議な美しさに包まれました。例えるなら、バロック初期のモンテヴェルディのマドリガーレのような神秘でしょうか。ヘンデルはどんな器楽曲にも歌が聴こえてくる人なので、こんな対位法の曲も歌なんですね。
少なくとも今日の私はこの解釈の虜になっています。来週のコンサートもこれで行きます。同じ曲でも弾き方が正反対になるというのは、私自身が変わり続けているからですね。これからツタがみんな落葉したら、そして雪が降ったら、雪が解けてツタの新芽が芽吹いたら、また解釈は変わるのでしょうか?とにかく、その時その時の自分の心に正直に演奏していきます。
追伸
このヘンデルの組曲ヘ長調HWV427が聴けるコンサートの詳細はこちらをご覧下さい。
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青と赤、きれいなカラー写真ですね!
一つの曲を季節によって違う感覚で受け取ったり、弾いたりされる先生の感覚にも驚きです!!。
周りが雪の白になったらどう変わるのでしょう?
季節が変わると歌いたい歌が変わるのは自分でもわかるのですが。同じ曲が季節の変化で違う表現になるとは今まであまり考えていませんでした。
コメントありがとうございます。
季節によって弾き方を変えようとしてもダメですが、その時々の自分の心に敏感になって、その感じたものを演奏に反映するように心掛けます。結果として変わることもあるし、変わらないこともあります。
そういえば、同じ曲を、昼と夜とでは弾き方が変わるのはずっと前から気がついていました。
八百板 正己先生
いつもメールを感謝いたします。
感心すること多くあります。
①バッハ療法はすばらしい!
②「少なくとも今日の私はこの解釈の虜になっています!」が仕事に惚れる者の同感です。いや、その情熱を尊敬いたします。
周囲の方々の温かな居場所がますます盛んになりますようにお祈りいたします。シャローム!高橋富三
コメントありがとうございます。
牧師先生のお仕事では、解釈といえば聖書の読み方がその時その時で変わることもあるのでしょうか? 少なくとも、礼拝での伝え方は変わるのでしょうね。演奏と説教、共通点が多いかもしれません。