今日から始まる後半生
51歳の誕生日を迎えました。
「人生50年」と言われていた昔でしたらこれで人生終わりですが、今は違いますね。私は勝手に100歳まで生きるつもりでいるので、昨日まででちょうど半分。今日から後半生が始まるのです。
何をそんなに大げさな、と思いますか? 私も今日という日を迎えるまではそんなに意識していませんでした。今までは、会社勤めを辞めてチェンバロ演奏家としての道を歩み始めた30歳が最大の節目だと思っていました。でも、自分自身の変化、そして自分と世界との関わりを考えてみたとき、どうやら今の私は大きな転機を迎えているんだと気がついたのです。
一言で表せば、広く新潟県外にまで視野が広がったということです。
音楽は生演奏で聴くべきだ、とずっと思っていました(そう言いながら、CDは何百枚も持っているんですけどね)。そして、チェンバロという楽器は特に録音が難しく、普通に手に入る機材で録音したものは玩具みたいにしか聞こえない、とずっと思っていました(これを実際に経験したのが20年くらい前です。その後のポータブルデジタル録音機のめざましい進歩に気がつかなかったんですね)。
さらに、チェンバロはピアノよりずっと音が小さいので、30人までくらいの客席数で小ぢんまりとしたコンサートにすべきだ、とずっと思っていました(実際数年前までは、けっこう無理をして毎年何回も横浜や東京や水戸にまで楽器を運んで小さなコンサートを続けていました)。私がすべきことは小さなコンサートだ、と決め付けていたのです。
変化はまず外側からやってきました。
「今の若者たちはもうCDなんか買わないで、ダウンロードして聴く」という情報が耳に入ってきました。でもそんなことはポピュラー音楽の世界のことだろう、と気にもしないでいたんです。
そうしたら、海外の老舗クラシック音楽レーベルのカタログで、録音の古いものから順にどんどんダウンロード販売に代わっていくではありませんか。さらに、発売されたばかりの輸入CDでも、細かい解説や歌詞対訳はウェブサイトをご覧下さい、となっていて、印刷されたものが手元にないんです。
そうこうするうちに、ビデオ映像が無料で見放題のYouTubeなるサイトのことが耳に入ってきました。既に版権が切れたような古い録音だけではなく、現役で活躍中の海外の名手の演奏がどんどん無料で配信されるようになりました。「チェンバロは小さいコンサートで生演奏で」と決め付けていた私ですが、気がつけば私自身がYouTubeを利用して世界最新のチェンバロ演奏の動向をチェックするようになっていました。
さあ、そうなると私の存在意義を考え直さないといけません。海外の名手の演奏が無料で大量に見放題なのに、誰が私の小さいコンサートに足を運んでくれるでしょうか? 録音されたチェンバロの音でも私自身も結構楽しめるほどに技術が進歩したのに、「チェンバロは生演奏で聴くべきです。新潟県にお住まいのあなたは東京のコンサートに行くのは大変でしょうから、代わりに私が新潟県内でする小さいコンサートに来るべきです。」などと、どうして言えるでしょうか?
答は簡単でした。私もメディアを使って広く新潟県外にも情報発信すればいいのです。海外の名手にできなくて私にできること、それは「日本語」です。私は自分のコンサートでもトークが楽しくて、ついたくさんお喋りし過ぎてしまうほどです。日本人の音楽好きの方々に向けて、日本語で音楽の素晴らしさをアピールするのです。
昨年50歳の誕生日を迎えた翌月に、学習用のDVDを2セット発売しました。
今年に入って、これまでのチェンバロ教室での指導や自分自身の経験をまとめて、効率的な練習法に関する書籍を発売しました。
これらと並行して、こういうものをきちんとアピールし販売できる機能を備えたウェブサイトを完全に一から作り直しました。
新しいウェブサイトの機能の一つとして、音楽やその他の美しいことについての考えを発信するブログも始めました。
2日に1件ほどのペースで書き溜められていくブログ記事や折々のニュースなどをお知らせするために、メールマガジンの配信も始めました。
そして昨日、50歳の最後の日に、先月行われたヴァイオリンとのコンサートの抜粋をYouTubeで公開したのです。
新たに勉強すべきことは本当にたくさんありました。
私は地方に住んでいます。しかも技術の最先端からこんなに離れている音楽家という仕事をしています。周囲にはこうした技術的なことに詳しい人は見当たりません。
技術的なことだけではありません。メールマガジンを発行しても登録解除されないようにするには、どういった切り口でどんな話題を提供するのがいいのかといったノウハウも知りません。
いったい何から手をつけて、どうやって勉強したらいいのか、全く見当もつきませんでした。それでも、間違った情報を掴まされて無駄な遠回りをすることのないように、私が信頼を寄せている通信教育の会社にこの一年間だけで何十万円も投資して勉強を進めてきました。
コンサートとは、単に暇つぶしのために出かけていくものではない、と私は信じています。この忙しい時代に、貴重な時間を割いて生のコンサートに出かけるんです。事前にCDなどで予習してから出かければ、いっそう実りの多い時間となるでしょう。そこに更に、私が提供する「最高に詳しすぎる日本語のお喋り解説」を読んだりビデオを見たりして知識と感受性を身につけておけば、もっともっとコンサートが有益な出会いの場となると思うんです。
もちろん私自身これからもコンサートで演奏を続けます。生のコンサートが一番だとの考えは変わりません。お客様と同じ空間にいて音楽を共有するのは神聖な体験です。私にとって貴重な学びの場です。
レッスンもそうです。生徒さんと同じ空間にいて一対一で音楽を作り上げていくのは、私にとってもとても勉強になります。
そういった生のコンサートや一対一のレッスンで得たものを、今度は日本全国の音楽好きの方々に向けて提供していきたいです。
私は音楽学者ではありません。それどころか、音楽大学出身でもありません。アマチュアからこの道に入り、遠回りをし、苦労をして今に至っています。だからこそ分かること、だからこそ共感できること、だからこそお伝えできることがあります。そうやって、日本中で一人でも多くの音楽好きの方を幸せにするお手伝いがしたい。今はそれが技術的に可能になっているのです。そのための道具も一年かけてひととおり整えました。あとは行動あるのみです。
技術の力によって、これからの私の人生は今までの何倍も密度が高くなる予感がします。言い換えれば、私が何人何十人と増える感じです。日本全国に私の分身が出かけていきます。これなら、もし100歳まで生きられなかったとしても、私がこの世に生きた証の量という意味で、51歳になった今日からが後半生と言っても間違いではないですよね。
これからの50年も、どうぞよろしくお願いいたします。そのために、あなたも私も健康で長生きしましょう!
追伸
これまでチラシなどに使っていたプロフィール写真が30代に撮ったもので、あまりに実際と違いすぎて間違われそうになっていました。昨日やっと写真屋さんに撮ってもらいました。でも、写真屋さんは撮った画像データを実物以上に美しく修正してくれるサービス付きで一週間かかるとのこと。私のプロフィール写真が入れ替わるのは来週になってからです。
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「生々流転」、「日々新たなり」というような言葉が浮かんできます。51歳の初ブログを読ませていただきました。八百板先生って面白い方だなあと思い始めました!
今まではバッハ心酔の超まじめな方と思っていました。どんどん変化、発展していかれるのだと今回は特に感じました。これからまた新しい何かが生まれて来るのを楽しみにしています。そのための見えない努力こそが素晴らしいです。
後半生、健康でご活躍を祈ります。
コメントありがとうございます。
そうですね。後半生は「もっと面白い八百板正己」になるのも楽しい目標ですね。
「見えない努力」といっても、こうしてブログで見えるようにしてしまっていますが、音楽そのものだけでなく、そういった周辺のことも楽しんで取り組んでいることを知っていただければと思います。