3秒だけバッハが降りてきました(写真付き)

フルートの浅利さんとバッハのソナタ・ロ短調を練習中、3秒だけですがバッハが降りてきました!

「バッハが降りてくる」ってどういう事かといいますと、自分以外の誰かが私の手に乗り移って弾いているのを傍で聴いているかのような錯覚のことです。十分に弾き込んだ曲を無心になって興奮して(無心と興奮って矛盾するみたいですけど)時の流れに完全に身を委ねられたときだけに起こるんです。

バッハのフルートソナタ全曲コンサートを間近に控えて、今日も新潟市から浅利さんが来てくれました。写真は、打ち合わせたことや気付いたことを几帳面に楽譜に書き込みする浅利さんです。

今回はかなりの練習回数を確保して臨んでいますよ。事前に取り決めしたことをただ淡々と練習して持ち寄るだけの本番ではつまらないし、そうかといって本番で急にインスピレーションが湧いてもその場でできる事には限りがあります。私も結構忙しいつもりでいますが、浅利さんだって忙しいはず。頻繁に私のスタジオまで来てくれてありがたいです。

「バッハが降りてくる」ことについて浅利さんに聞いてみたところ、彼もやっぱり時々そういう事があるそうです。こういう経験をした人って、どれくらいいるんでしょうね?

「どうして音楽をするのか?」と尋ねられれば、もちろん「多くの方々にこの素晴らしい音楽をお伝えするため」と答えます。でも、本当のことを言えば、自分が音楽をしていて一番幸せなのはこの「作曲家が降りてくる」という稀有な瞬間に出会えた時です。音楽をするのは、この稀有な瞬間を再び経験したいからなのです。できることなら、私の演奏を聴いて下さる方々とともにその瞬間を迎えたいです。私のコンサートでも、年に一度か二度くらいは客席全体を巻き込んでそういう事が起こります。

でも、それは私のような演奏家には狙ってできることではありません。十分な練習を積み、蓄えた力を十分に発揮できるようにコンディションを整えて、それが起こる確率を高めることならできるのですが。

練習には「これで十分」ということがありません。弾けば弾くほど作曲家が降りてくる確率が高まるのですから。本番までの残された日々、何もかも投げ出して練習に没頭してしまおうかな。

 

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3秒だけバッハが降りてきました(写真付き)” に対して2件のコメントがあります。

  1. 芹沢ヨシノリ より:

    60年の生涯で、1回だけ八百板先生と同様の経験をした事があります。
    30代半ばの或る年、あとクリスマスまで2~3日という宵の口にシューマンの幻想曲のフィナーレを弾いていたら、アタマの中で五線にペンでサラサラと書付ける音が聞こえ、その瞬間に曲の意味やらシューマンが込めた想いやらがシュトゥルムウントドランク状態で拙のチンケな脳ミソが支配されてしまいました。あれから30年近く経ちますも、未だにナゾの一瞬でした。後年、故岩城宏之氏がウィーン・フィルを初めて指揮した時にからめてそういう経験をエッセイで語っておられるのを読み、「ん、オイラの人生も捨てたもんじゃないな」と感慨にふけったものでした。
    至福の想いだったのは確かです。

    1. 八百板 正己 より:

      それはよかったですね! これからも、無心になって音楽と向かい合うように務めていれば、また起こると思いますよ。

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