バッハの時代のチェロってこんな楽器!(ビデオ付き)

クイズです。チェロってどんな楽器でしょう?

答え:ヴァイオリンをずーっと大きくした楽器で、ヴァイオリンとは違って楽器を縦に構えて体の前に立てて弾きます。

っていうのは、現代のチェロの話です。バッハの時代のチェロは全く違ったんですよ。

どのくらい違ったかというと、はい、このページの一番下までスクロールして、張り付けてあるビデオの写真をご覧ください。なんと、ヴァイオリンみたいに横に構えて弾いていたんです!

大きさは、ヴァイオリンより少し大きいヴィオラよりももう少し大きいですが、現代のチェロと比べたらずーっと小さいです。ヴァイオリンみたいに顎に挟むには大きすぎるので、紐をつけて首に掛けて構えます。

それに弦が5本もあります!

 

バッハの時代のチェロがこういう楽器だった、という情報自体は研究者の間ではずいぶん前に明らかになっていたらしいです。

でも、正しい情報だからって、すぐに広まるとは限らないんですよね。特に、その情報が特定の誰かの不利益になるような場合には。

この場合だと、プロのチェロ奏者たちがみんな「そんな事があるはずない!」と言って闇に葬ろうとしました。だって、こんなふうにヴァイオリンみたいにして構える小さな楽器でバッハを弾くのが本当だ、なんていう常識が広まってしまったら、プロのチェロ奏者たちは貴重なレパートリーを奪われてしまいますから。

かつて同じことがチェンバロについても起こりました。研究者たちが「バッハはピアノではなくチェンバロを弾いていた」と言っても、膨大なレパートリーを失うことを恐れたピアニストたちに反対されたんです。「偉大なるバッハが、チェンバロなんていう昔の劣った楽器で満足していたはずがない。バッハは現代の最も優れた鍵盤楽器であるピアノで弾くべきだ」ってね。

そんな争いの中から、少しずつチェンバロが広がっていったのは、聴衆が少しずつチェンバロを支持するようになったからです。事実がどうだったかを調べるのは研究者の仕事ですが、その事実が世の中に広がるかどうかは聴衆が鍵を握っているんです。

 

バッハの時代の小さなチェロは、何と言っても、楽器の小ささから来る「軽さ」が素晴らしい魅力です。音を聴けばまさしくチェロの音域です。でも、音を消して映像だけ見てみると、まるでヴァイオリンを弾いているかのように軽々と自由自在に踊っているようです。バッハの無伴奏チェロ「組曲」というのは宮廷の踊りを集めたものなのですが、こんなに踊りらしい無伴奏チェロ組曲を私はかつて聴いたことがありません。

お喋りはこのくらいにしましょう。演奏をご覧ください。バッハの無伴奏チェロ組曲第6番です。この楽器、そしてこの演奏について、あなたはどう思いますか?

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バッハの時代のチェロってこんな楽器!(ビデオ付き)” に対して21件のコメントがあります。

  1. 澤田 博實 より:

    貴重なら動画を有り難うございました。

    1. 八百板 正己 より:

      どういたしまして!
      お役に立てまして嬉しいです。

  2. k552 より:

    先日、ある会場でのチェロのミニコンサートに行きました。
    その際、演奏者のそばにいた方で楽器のうんちくを語ってる人がいました。
    語りたい気持ちもわかりますが、狭い空間で周りに聞こえるような話はなるべく控えてもらいたいものです。
    演奏を楽しむことに皆さん集まってるのですから、、、、
    それにしても確かに大きさがだいぶ違うのですね。

    1. 八百板 正己 より:

      もしかして、その人はわざと周りに聞こえるように話していたのかもしれないですよね。
      黙っていたのでは誰も自分の知識を評価してくれないからって。

      1. K552 より:

        私もそうは感じていました。
        自分もそうはならぬよう気をつけようと思いました。
        そもそもそんな知識を持ち合わせてませんが、、、

        1. 八百板 正己 より:

          さすがですね!
          知識の多い少ないの問題ではなく、生き方の問題です。
          美しい音楽を前にすると、心ある人なら謙虚になるものです。

  3. Y.M. より:

    こうやって演奏するチェロの動画は初めて見ました。
    楽器の構え方もさることながら、5弦の楽器を使うことによって、
    バッハの無伴奏チェロ組曲第6番を、バッハが意図した通りに演奏しているのは素晴らしいです。
    バッハのチェンバロ曲をヒストリカルチェンバロで演奏することが当たり前になったように、
    バッハの無伴奏チェロ組曲を
    「第5番はスコルダトゥーラした楽器で演奏する」「第6番は5弦の楽器で演奏する」
    ことが当たり前になる時代が来ることが待ち遠しいです。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      無伴奏チェロ組曲について詳しいんですね!

      この楽器を国内で作っている日本人の楽器製作者がいることを、メルマガの読者さんが教えてくれました。
      アマチュアも巻き込んで、というかむしろアマチュアが中心になって、こういう楽器が広がりつつあるのは、とても楽しみです。

  4. 木村 はるみ より:

    録音がとてもいいですね。
    とても素晴らしい演奏ですね。
    この大きなチェロ?はどうやって支えて演奏しているのか
    不思議でなりません。
    チェロの後ろに引っ掛けるところがあってショルダーみたいになっているのでしょうか。
    教えてくれますか?

    最近たまたまスマホで矢尾坂さんのサイトを知りました。
    何かのめぐりあわせなのでしょうか。
    バッハの演奏に対して改めて勉強したくなりました。
    楽しみにしています。
    今バッハのシンフォニア3番の練習をしていますが、難しい、
    はじめの3小節のテーマがなかなかできない。かなりミスタッチをします。
    とにかくまともに3声が弾けない。
    しかし、練習のみ、まず音をマスターするのに時間がかかっています。
    がんばるのみですね。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      このタイプのチェロを国内で作っている楽器製作者のホームページをご覧ください。
      写真も載っています↓
      https://liuteriatakumi.com/violoncellodaspalla/

      シンフォニアの第3番ですね。
      たしかに弾きにくいです。
      こういう曲を短期間で弾けるようになるための本を自費出版しました。
      よろしければご覧ください↓
      https://cembaloyaoita.com/%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e3%80%81%e3%83%93%e3%83%87%e3%82%aa%e6%95%99%e6%9d%90/%e6%9b%b8%e7%b1%8d%e3%80%8c%e8%b6%85%e5%8a%b9%e7%8e%87%e3%83%90%e3%83%83%e3%83%8f%e7%b7%b4%e7%bf%92%e6%b3%95%e3%80%8d/

      1. 木村 はるみ より:

        肩がけチェロというものがあるのですね。
        ありがとうございました。
        また演奏方法も学んでみたいと思いますので、取り合えず1週間のお試し申し込みをしました。
        私はとりあえず音大で教育音楽科でしたので、バッハは2声はすべて弾いたような?と3声をちょっとやりましたが、まったく演奏方法など教えてくれませんでした。
        そして最近知ったのがシンフォニアという言葉です。
        お恥ずかしいのですが、シンフォニアって3声のことなんですか?
        よくわかっっておりません。

        1. 八百板 正己 より:

          俗に言う「3声のインヴェンション」は、バッハの自筆筆では「シンフォニア」と書いてあります。
          シンフォニアという用語はバッハのころにはまだ特定の何かを表すわけではありませんでした。

          1. 木村 はるみ より:

            八百坂様
             ありがとうございました。

  5. 木村 はるみ より:

    すみません。
    お名前を間違えてしまいました。
    矢尾板さんでした。

    1. 八百板 正己 より:

      よく間違えられますから慣れています。どうぞお気遣いなく!

  6. 髙倉匠 より:

    はじめまして、埼玉県飯能市で弦楽器製作をしている者です、
    八百坂先生のインヴェンション解説動画に感動して(お叱りを受けているはずなのに、なぜか嫌な気はしませんでした笑)、こちらのブログを見つけたところ、当工房でも使っている小型のチェロ(肩掛けチェロ、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ)に触れておられ、驚いてコメントさせていただいています。
    私もバッハ大好きで(先生の熱狂には到底及びませんが笑)、弦楽器製作の道に入るきっかけでした。YouTubeも登録させていただきましたので、今後のご活躍も楽しみにしております♪

    1. 八百板 正己 より:

      高倉様。
      こちらこそ、ご挨拶申し上げようと思っていたところです。
      あのブログを書くにあたっても、高倉様のサイトを参考にいたしました。
      これからもよろしくお願いいたします。

  7. 星野裕子 より:

    バッハの時代には、こういうチェロもあった、ということでしょうか。無伴奏チェロ組曲の6番は、このタイプのチェロの為に書かれたと読んだ事があります。
    音を聴くと、やはり楽器が小さいせいか、ちょっと高めに聴こえますね。ヴィオラとチェロのあいの子のような。高音域の5番めの弦を多用しているのもあるかもですが。
    何でもそうだと思いますが、時間の経過や時代が下ると、色々と枝分かれ的に物事が派生していく事はあると思います。原点をきちんと抑えておくことは勿論大切ですが、枝分かれしていった先の変化を楽しむのも(場合によってはサブカルチャー的なものまで含めた)、芸術の楽しみ方だと思います。
    貴重な動画を紹介したして頂き、有り難うございました。

    1. 八百板 正己 より:

      バッハの時代に「チェロ」と言った場合には、この楽器のようにヴァイオリンのように構える楽器を指したらしいです。
      バッハの時代にも現代のチェロのように構える楽器は使われていましたが、それらは「ヴィオローネ」と呼ばれていました。
      同じ「ヴィオローネ」という言葉でも、チェロ同じ8フィートの楽器のこともあったし、コントラバスのようにオクターブ低い16フィートの楽器のこともあったし、両者の中間(最低音がソの音)もあったようです。

  8. 淺見 より:

    ヴイオロンチェロ・ダ・スパッラ、私もマーロフのこの動画を見て衝撃を受けました。バッハの組曲第6番は4本弦よりもこのスパッラの5本弦の方が弾きやすいそうです。
    生でこの楽器の音を聞いてみたい!と思い,2022年にシギスヴァルト・クイケンの演奏会に行きました。素朴な音ですが,楽器を鳴らすのに技術がいるように感じました。日本人でも寺神戸亮さんが弾いておられていつか聞いてみたいと思ってます。

    1. 八百板 正己 より:

      生でクイケンのスパッラをお聴きになったんですか。いいですね!

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