何だこれは!こんなものは見た事がない!(写真付き)
まるで現代の前衛音楽の楽譜みたいでしょ? でも違うんです。バッハが生まれるよりも前、17世紀の楽譜なんです。
私がこの曲の楽譜を初めて見たのは、高校生の時だったか、それとも大学に入ったばかりの頃だったか、とにかく驚きましたよ。「何だこれは! こんなものは見た事がない!」ってね。
現代の私たちはいつも「ここに楽譜がある。それをどう弾くか?」というふうに考えます。
でも、その楽譜を書いた作曲家は違ったんです。まず演奏して(大抵は即興で)「今の演奏をどうやったら楽譜に残せるだろうか?」と考えたんですね。現代の私たちと逆です。
昔は即興演奏がとても盛んで重要視されました。チェンバロもオルガンも、一人で音楽が完結する鍵盤楽器は即興演奏にうってつけです。「前奏曲」「トッカータ」「幻想曲」といった曲は本来即興演奏されるものでしたが、即興演奏のスタイルに則ってあらかじめ作曲されることも盛んに行われました。
上の写真の楽譜もそういう種類の音楽です。拍子に縛られずに自由に即興演奏する様子を、できるだけ何拍子とか何分音符とかの見た目に惑わされないように記譜しようと努力して生み出されたものです。
と、音楽史の勉強をしている分には「へえ、面白いね」と他人事で済むのですが、いざ弾こうと思ったら大変ですよ。
だって、全ての音符が同じように白い玉で書いてあって、しかも昔は紙が貴重品だったので、ゆっくり弾く所も速く弾く所も構わず同じように音符を詰めて書いてあります。だから、どの音をどのくらいの速さで弾けばいいのか、この楽譜からは全く分からないんです。
しかも時代は17世紀。基本的に対位法の時代です。こんなふうに好き勝手に音符が波打っているみたいに見えても、よくよく分析するとその中に4声の対位法が隠れています。元の発想である対位法が聴き取れるように、そしてその対位法を即興で飾ったかのように弾くことが求められるんです。
上の写真に所々「e」とか「d」とかのアルファベットを書き込んであるのは、その対位法の核となる音を私が見つけてメモしたものです。指の練習を始める前に、こういう知的な作業がたくさん必要なんです。
ではこの写真の曲をお聴きいただきましょう。収録したばかりのビデオです。
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綺麗な楽譜ですね。
右手のCクレフがソプラノ記号なのはよく見ますが、バスのFクレフが第3線になっていますね。
昔、音楽の授業でト音記号やヘ音記号の正しい書き方が問題になってた記憶がありますが、その時に間違いとされていたことは、実は間違えではないんだということを誤答とされた子に教えてあげたいです。
コメントありがとうございます。
この楽譜は「ボーアン手稿譜」といって、17世紀のとても重要な手稿譜です。
シャンボニエールとルイ・クープランのほぼ全てのチェンバロ曲、それに同時代のドイツやイタリアの数多くの作曲家の鍵盤曲が含まれます。
この曲も現代の出版筆は普通のト音記号とヘ音記号に書き換えてありますが、私はこの楽譜を見ながら弾いています。慣れればけっこう読めるものですよ。