拡大コピーの効能

私の本をお買い上げのお客様からメールをいただきました。

細かい楽譜を150%に大きくしてみると落ち着いてできると思って練習しています。

なるほど! と納得しました。さっそく皆さんにもお知らせしなきゃ、と思ってこれを書いています。

私の本では、「バッハに関しては、とにかく1小節といった短い範囲をゆっくり繰り返し練習するのが圧倒的な近道」と力説しています。そのための方法の一つとして「練習しようとする小節の前後を付箋で隠してしまえば、見えているその小節の練習に集中できる」とも紹介しています。

今回お客様からいただいたメールでは、楽譜を拡大コピーすると落ち着いて練習できると書かれています。楽譜が大きくなれば、今練習する部分以外のほかの音符は視野の端の方に行ってしまいますから、それで集中できるという効果もあるでしょう。でも私は、もう少し考えてみて、もっと別の効果もあるのではと思ったのです。

例えば、誰かと込み入った難しい打ち合わせをするとき、相手が10mも離れていたらどうでしょう? たとえそこにいるのが自分と相手だけだとしても、たぶん色々と気が散ってしまうでしょうね。それは、周りに関係ないものがいろいろ目に入るというだけでなく、集中しなければいけない相手が遠くに小さくしか見えないことで「大して気にかけなくていい存在」のように無意識に判断してしまうからかもしれません。

また別の例を。新聞を広げて両腕を伸ばして持った姿勢で、本文の小さい字を声に出して朗読してみましょうか。たぶん、大まかな内容は間違えなくても、細かい言い回しがけっこういい加減になるのではないでしょうか? 字が小さくしか見えないことで別の字に見えやすいというのもあるでしょうが、それだけでなく、多少の言い回しの違いを「これくらい大したことないでしょ?」と軽く考えるからなのではと思うのです。

今思い出しましたが、バッハの練習でも私自身かつて経験がありました。音符が小さく印刷されていると、確かに細かい所への配慮がおろそかになりがちでした。市場に出回っている楽譜にそんなに小さいものは多くありませんが、コンサートで譜めくりをしないでいいようにと、練習を始める前からすごい縮小率でコピーして全ページを繋ぎ合わせた楽譜を作ったりしていたのです。長い曲だとほとんど音符が読めないくらい小さかったですね。結果として練習の効率は下がるし、本番の演奏もダメでした。

今は違います。最終的には縮小コピーをして繋ぎ合わせることになる曲も、練習がある程度進んで広い範囲を通して練習する段階になるまでは、あくまでも大きい音符のままでいます。

人間の心理とはおもしろいものですね。楽譜を拡大するだけで練習がうまくいくなんて。

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拡大コピーの効能” に対して2件のコメントがあります。

  1. 御手洗由夏 より:

    仕事でも応用できそうです!
    久しぶりに英語の資料と格闘しており苦痛でした。
    画面拡大して読み込みを進めてみたいと思います。素敵なヒントありがとうございます!!

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。たしかに英語も字が小さいと集中しにくいですね1

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