幸せなリハーサル
ついにこの日がやってきました!
といっても本番ではありません。ヴァイオリンの風岡優氏のリサイタルに向けての初リハーサルです。たかが初リハーサルを「ついに」というほど待ち焦がれていたのはなぜかですって?
その話はちょっと真面目になるので後回しにして、リハーサルでの風岡氏の様子をこっそりお話ししますね。
30年以上も新潟大学のオーケストラを指導なさっている風岡氏は、そういう場では冗談も言う「ひょうきん者」を演じていらっしゃるようで、若者に好かれています。でも、私と一騎打ちのときは真面目な音楽の話しかしません。もう10年以上も毎年お付き合いいただいていますが、その間ずっとそうです。
今日のリハーサルでも、途中の休憩で桜餅をお出ししたのですが、結局二人とも「桜餅」という単語を一度も口にする事なく、ずっと音楽の話をしていました。それだけ私を「気を使わないで音楽の話だけをできる間柄」と認めてくださっているのでしょう。ありがたいことです。
ではお待たせしました。私が今日の初リハーサルを待ち焦がれていた理由をお話しします。
鍵盤楽器はピアノもオルガンもそうですが、独奏曲という完結した世界があります。一人で練習していてそれが本番での完成形なのです。それに対して、他の楽器とアンサンブルするために練習していると、自分のパートだけ練習しているときには大切な旋律がすっぽり抜け落ちた状態です。ヴァイオリンと合わせるとどんな響きになるのだろう?ということはCDを聴いたり楽譜を見たりすれば理解はできます。でも本当の意味で全身で納得するには、やっぱり生のヴァイオリンと一緒にリハーサルするのが最高です。
ちょっと専門的な話になりますがお付き合いください。
「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ」というときには、チェンバロは左手で弾く低音しか楽譜に書かれていません。右手の音は奏者の判断に委ねられていて、時には左手の空いている指も使ったりして奏者の裁量で即興的にかなり厚い充実した伴奏を弾くことだって許されます。この場合、自分ひとりだけで練習していても和声は完結しているわけです。古典派以降のヴァイオリンソナタのピアノ伴奏も大抵そうですよね。伴奏だけ練習していても和声は完結しています。
ところが、バッハ特有の「ヴァイオリンと(オブリガート)チェンバロのためのソナタ」となると話は違ってきます。チェンバロの右手はバッハによってしっかり作曲されています。そしてその右手が、和音ではなく一つの旋律しか弾かないことが殆どなのです。バッハの意図は「ヴァイオリン、チェンバロの右手、左手」の三者が全く対等な関係で絡み合うことです。一人でチェンバロパートだけ練習していると、常に音が3つしか鳴らない音楽のうちの、常に2つの音しか鳴っていないのですから、演奏はやたらと難しいのに聴いていてとても頼りないのです。
だから今日の初リハーサルが楽しみでした。どの楽章も、一回目はお互いに用意してきた演奏がうまくかみ合わなくても、どんどん有機的に絡まるようになっていきました。そして、「自分 対 風岡氏」という捉え方が完全に消滅する瞬間もたくさんありました。3声部の進行の流れに身を任せて、この旋律は自分が右手で弾いているのか、それともヴァイオリンが弾いているのか、といった区別を超越して、作品全体を一つのものとして把握できている瞬間です。言い換えるなら、自分の指でありながら、自分で弾いているのではない感覚です。同時に、ヴァイオリンの旋律も自分が奏でている感覚です。
この感覚は感動ものです。うまく説明できませんが、とにかく興奮します。だから、それができなかった部分との落差が激しく、10日後の本番までにどれだけ理想に迫れるだろうか?と複雑な思いでもあるのです。今日はまだ感動が瞬間的、せいぜい10秒間が何回か、という程度でしたから。
さあ、残された10日間で最善を尽くしますよ。風岡氏とのリハーサルはあと1回しかありません。個人練習の密度をひたすら高めていきます。
ところで、次のリハーサルでは桜餅の隣に売っていた「よもぎ餅」をお出ししようかな。
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おはようございます。いつもブログを楽しく読ませて頂いています。
私の場合はパソコンを利用していますが、この場面で読むとだいたい
19センチの幅になっています。(文字のサイズを自分に読みやすく
あわせているせいかもしれませんが)今日はプリントできるのかなと
思い印刷画面を出してみました。印刷プレビューの画面がとても私には
読みやすかったです。測ってみたら8センチほどでした。文章がなおよく
身にはいるようでした。演奏会当日、ヴァイオリンとチェンバロの織りなす
音色をかみしめたいと思います。
コメントありがとうございます。
画面の大きさ(と字の大きさ)で読みやすさが変わるだけでなく、「文章がなおよく身に入る」ということもあるんですね。良いことを教えていただきました。私もいろいろ工夫したくなりました。
演奏会へのご来場を心からお待ちいたします。