オンライン・ビデオ教材「バッハ最愛の鍵盤楽器クラヴィコード」(新版)

~ バッハの教育用諸作品の本当の美しさを再発見 ~

 

4.バッハの教育用諸作品をもっと大胆に弾く!

バッハの教育用諸作品をクラヴィコードで弾くと、全く違う姿を現すことに驚くでしょう。演奏時間1分や2分の小品の中にも、本当に深い精神と美しさがしっかり刻まれています。そして、そんな小品を書くときでさえバッハは鍵盤楽器というものをはるかに超越した世界を見つめていたのです。

ここで解説したことのほとんどが「当たり前のこととしてあなたの心に染み込んだ」ときには、あなたのバッハ演奏は知識と感受性においてプロのチェンバロ演奏家に匹敵すると言ってよいでしょう。何となく弾く音、楽譜どおりに機械的に弾く音は一つもあってはならないものです。どうかあなたも繰り返し視聴して、バッハの楽譜の裏に潜む、バッハからのたくさんのメッセージを感じる豊かな心を育んでください。

4.1 小前奏曲

4.1.1《ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集》より

前奏曲 ハ長調 BWV924

(1曲目なので特に詳細に説明します)

  • リュートをイメージした分散和音は自由なタイミングで弾きながら音を重ねる
  • 1~6小節:各小節で「加速→減速」の山を作る
  • 1小節4拍:高い=弱く繊細に、遅く
  • 2小節:突然の短調を表現するために少しためらいながら
  • 2小節4拍:さらに高い=さらに弱く繊細に、遅く
  • 3小節4拍:左手の装飾音は時間をかけて丁寧に
  • 4小節:短調を表現するために弱く遅く
  • 4小節4拍:左手の複雑な装飾音はテンポを大幅に遅らせてでも時間をかけて丁寧に
  • 5小節:長調に戻ったことを表現するために速く
  • 6小節後半:冒頭6小節の終わりを表すために特に遅く
  • 7~8小節:高音による2拍ずつの「繋留と解決」を出しながら、全体としても「加速→減速」の山にまとめ、8小節4拍は特に遅く
  • 9小節1拍、2拍:それぞれフェルマータ
  • 9小節3拍~10小節:この曲で最も即興演奏らしく、大胆に「加速→減速」
  • 11小節左手:オクターブはチェンバロ曲では異例→思い切り強く
  • 11~12小節:最高音による「繋留と解決」を出しながら2小節で「加速→減速」
  • 13小節:高音による半音階の表情を出すために遅く
  • 14~15小節3拍:内声の「ソ→ラ→ファ→ソ→ミ→ファ→レ」を出しながら全体として「加速→減速」
  • 15小節3拍以降:不規則な動きは、これを即興で思いつきながら弾いているかのように不規則な加減速を伴って弾く(臨時記号のあるところは特に遅く)
  • 18小節:楽器の最低音を含むオクターブ→強く堂々と

 

 

●前奏曲 ニ短調 BWV926

(2曲目なので特に詳細に説明します)

  • 分散和音でもリズムの自由な揺れを許さないかのような厳しさを感じる
  • 5小節:厳しい音のぶつかりで「時間をかけたいが許されない」ようなジレンマを表現
  • 7~8小節:両手同時の細かい動きはクラヴィコードでは特に凄みが表現できる
  • 9小節:最初の意外なシで止まり、改めてスラーの付いたファ以降を一気に弾く
  • 11小節:曲の冒頭と同様に厳しく
  • 12小節:対照的に弱く柔らかく
  • 15~18小節前半:左右の手が互いに拘束しないので、対話の間合いを表現して思い切り自由なリズムで
  • 18小節後半~19小節:両手が同時に動くが、順次進行主体なので7~8小節より落ち着いて
  • 21~24小節:規則正しく厳しく、内声の「ラ→ソ」の動きを出して
  • 25小節:左手の意外なシとそれに続く休符→始めの音で止まってから弱く動き出す
  • 26~27小節:内声の「ファ→ファ#」の表情
  • 31小節:ナポリ6の和音の表情
  • 32~33小節:内声の減3度(ミ♭→ド#)の表情
  • 37~38小節:左手最低音域の凄み、38小節3拍で一旦終わるように遅く
  • 39~42小節:できる限り自由に。39小節3拍は動きが複雑なので遅く、40小節後半は最低音域での動きの反転なので遅く、42小節の臨時記号は意外なので遅く
  • 43~44小節:豊かな和音は壮大な編成や大オルガンなどをイメージして堂々と。44小節3拍で一旦終わるように遅く
  • 45小節~:高音の「レ→ド→シ→ラ→ソ→ファ#」を出して整然と

 

 

●前奏曲 ト短調 BWV930
  • 1~2小節:左右の手の掛け合いの間合い
  • 4~5小節1拍:右手内声「ラ→ラ♭→ソ」の表情
  • 8~10小節:右手高音の3回のドを響かせる
  • 10小節1拍:不協和音で止まる
  • 12小節1拍:右手高音のレを揺らす
  • 12~14小節:内声の8分音符2つの半音はスラーで「強→弱」
  • 20小節1拍:右手ファの表情
  • 25小節:左手突然の休符(驚き)の上の右手の表情(呆然)
  • 28~29小節:左手最低音域の短調 対 右手中音域の長調を対比させる
  • 33小節3拍:右手最高音域の順次進行の表情
  • 38小節:連続8度の激情

 

 

●前奏曲 ニ長調 BWV925
  • クラヴィコードで弾くと豊かなオルガン音楽のようなイメージ
  • 2、4小節1拍左手:オクターブ下で始まる主題は足鍵盤のような強さを感じる
  • 5小節2拍:左手ドの表情
  • 8小節:薄い書法→繊細に
  • 10小節:最低音域→壮大に
  • 13小節:両手同時の細かい動きはクラヴィコードで特に密度の高さを感じる→しつこく弾く
  • 14小節4拍:一旦終わるようにかなり遅く
  • 16小節後半:左手内声の半音階の表情、ここも一旦終わるように遅く
  • 17小節前半:遅めに分厚い演奏