泣いて下さるなんて(写真付き)
演奏に呼んでいただいた、山裾にひっそりとたたずむ隠れ家のようなレストランです。辺りに人家はなく、見渡す限りの緑です。チェンバロの搬入のために早めに到着すると、ウグイスなどいろいろな鳥の声が出迎えてくれました。車を降りると、レストランのオーナーが庭で育てているたくさんのハーブの香りが爽やかです。
「チェンバロとハーブガーデンと夕日と蛍と星空とハーブディナーの夕べ」と題した欲張りなこのイベント。もう20年もお付き合いのあるハーブ屋さんが、ハーブ教室の一環として毎月このレストランで開いている食事会です。私は毎年蛍の時期に呼んでいただいています。以前は12月に呼んでいただいていましたが、何しろ雪がすごくて楽器を搬入するだけでも大騒ぎでしたっけ。
今回用意した曲は、食事の前にスカルラッティとヘンデルを合わせて30分、食事の後にバッハのゴルトベルク変奏曲から抜粋で30分です。おいしい食事は私もお客様と一緒にいただきました。
ハーブ教室の一環ですから、フルコースのディナーの一品一品にハーブがふんだんに使われているだけではありません。テーブルには摘んだばかりのさまざまなハーブが水を入れたコップに挿してあって、「このお料理にはこのハーブをちぎって散らすといいですね」「このお料理と一緒にこのハーブもお口に入れると美味しいですよ」と、なかなかワイルドな楽しみ方です。
こういう所にいると五感が研ぎ澄まされますね。食事の間もBGMをかけないので、蛙の合唱が外から聞こえてきます。
食事が終わって、もう窓の外は真っ暗です。人間の聴覚も敏感になる時間です。こんなシチュエーションでバッハのゴルトベルク変奏曲を弾けるのは私も嬉しいですね。ところがどうしたことか、後ろの方の難しい変奏でミスが連発です。そういえば、この変奏のこの部分は油断できないんだった。ここ数日間の練習の詰めが甘かったと反省します。
それなのに、30分の演奏が終わると、泣いている方が何人もいらっしゃるではありませんか!
今までならコンサートの最後の曲の前に、涙を誘うようなトークで誘導しておく、なんていう伏線を張ったりもしたものです。でも、毎年同じ時期に同じ会場でのコンサートで、そうそう同じトークばかりもしていられません。今回は思い切って、そういう感情的なことには触れないでおいたのです。
それでもお客様が泣いてくださったという事は、純粋にバッハの音楽に心動かされたということでしょうか。私自身は連発するミスをどう収拾しようかと必死だったのに、そんなこととは無関係にバッハの音楽がまっすぐお客様に届いたのでしょうか。
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とても素敵な会場の写真ですね!
泣いておられたお客様は素晴らしい感性をおもちなのでしょうね。
会場もお料理も音楽もすべてに打たれたのでしょう。
私はゴールドベルクのアリアだけしか覚えていないのでせめてCDを
聴いてみようと思います。
ありがとうございます。
この日のすべてのことが音楽と一緒になって、お客様の心を動かしたのでしょう。
ゴルトベルク変奏曲は、特に最後の数曲を続けて聴くと素晴らしい効果が出るように作られています。ですので、この日は第29変奏から先は省略せずに全部続けて弾きました。
バッハの音楽がまっすくお客様に届くー素敵なことです。大切にしたいと思います。
ありがとうございます。
バッハの音楽をまっすぐ届けることができたならば、演奏家として役割を果たしたことになります。
素敵なレストランですね!
そうなんです。次は仕事ではなく客としてここの時間を楽しみたいものです。