それは無いでしょう?

ビデオ収録に向けて、私は先週からずっとバッハのシンフォニア第12番を練習していました。自分の解釈に自信もあったので、迷うことなく収録は無事に終わりました。

ピアノ教室にかよう中高生でも弾く曲ですから、ふと「みんなはどのくらいの速さで弾くのかな?」と気になりました。まあ、他人がどう弾こうとも、そんな事くらいで自分の解釈が揺らいだりはしませんけどね。

試しにYouTubeで検索して、上から5つ聴いてみました。そうしたら・・・

その5つの演奏が全部完全に同じテンポなんですよ! それは無いでしょう? ひどすぎます!

バッハは楽譜に速度なんて何も指定していないのに、どの演奏も完全に同じテンポって、どういうこと? その曲に真剣に取り組めば取り組むほど、他の人と同じ演奏にはならないはずなんですよ。

それを「人の演奏をとりあえずコピーしておけばいいか」なんて、「**音楽教室」とか「一般社団法人全日本***指導者協会」とかを名乗る人たちのする事ではないですよね?

じつは、バッハの弟子の筆写譜には、冒頭の主題に特別な装飾音が追加されています。フランス音楽特有の「ポール・ド・ヴォワ」という装飾音です。その装飾音をバッハが使うときは大抵、フランス宮廷の優雅で洗練されたお洒落な雰囲気を出したい場合です。

他にも、同じ筆写譜で2ヶ所、16分音符にトリルとモルデントが追加されています。あまり速いテンポではこれが弾けないし、無理に弾くと曲の雰囲気が台無しです。

ということで、けっこう落ち着いたテンポで弾くべきだと私は考えるのです。結果として、他では聴いたことのないシンフォニア第12番になりました。収録したばかりの演奏をどうぞお聴き下さい。

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それは無いでしょう?” に対して8件のコメントがあります。

  1. 平田暢子 より:

    とても優雅な曲ですね。低音の人がゆったり鳴らして、上の人が華やかに歌う感じが聞こえてきました。ピアノでもこんな風に弾けるといいなと思いました。

    1. 八百板 正己 より:

      ありがとうございます。
      ぜひピアノでお弾きになって下さい!

  2. Y.M. より:

    手許のCD(演奏者名は伏せさせてもらいますが)でも、かなり速いテンポで演奏しています。
    前にもコメントに書いたと思いますが、バッハはインヴェンションとシンフォニアを
    「なによりもカンタービレの奏法を身に付けること」を目的として作曲したはずなのに、
    巷のピアノ教室では「指の練習曲」としか認識されていないのではないか、と思いました。
    もしかするとシンフォニア第15番は、あの「32分音符をいかに速く、間違えずに演奏するか」を
    競うだけの演奏がまかり通っているかもしれません。
    人によって歩く速さ、話す速さがみな違うように、「カンタービレ」の演奏をする時のテンポは
    演奏者によって違ってくるはずです。
    でもバッハが、フランス宮廷の優雅で洗練されたお洒落な雰囲気を出すための装飾音を書いた
    意図を理解するならば、自ずと、ゆったりとしたテンポに落ち着くと思います。

    1. 八百板 正己 より:

      援護射撃ありがとうございます!

  3. ピーちゃん より:

    私の恩師、杉谷昭子先生も絶対にバッハを速く弾かせなかったです。逆にゆっくりめで仕上げされられました。それがすごく説得力のある音楽になるんです。音の出し方もロマン派以降とは違う出し方です。しかしコンクールで弾くとたぶん「遅い」と言われるでしょうし、速い演奏を正しいと思っている人はイライラするかもしれません。だけど聴くと心に入るんです。バロック、古典は本物と偽物の狭間でいつも悩んでいます。

    1. 八百板 正己 より:

      嬉しいコメントをありがとうございます。

      私は「いつかは本物が受け入れられる時が来る」と信じています。
      20世紀の半ばまでは、バッハをチェンバロで弾くこと自体が異端視されましたが、今は受け入れられています。
      同じように、バッハの時代に弾かれていたテンポでバッハを弾くことも、いつかは受け入れられるでしょう。

      ですから自信を持って、時代の最先端を行く「本物の演奏」を弾き続けましょう!

  4. 星野裕子 より:

    私もyoutubeで幾つか聴いてみたのですが、皆さん速めに弾かれていますね。
    思うのですが (違っていたらすみません!)、この曲は、舞曲で言うところのアルマンドっぽい、、?感じがしました。(フランス組曲5番の1曲目のアルマンドの冒頭と、この曲の冒頭右手側の譜割りが似ている気がします)
    私の邪推が当たっているかは分かりませんが、もしバッハがこの曲のテンポを、アルマンド相当と考えていたなら、一般的に「速すぎず、中庸なテンポで、流れるように」演奏されるアルマンドの特徴と、先生の演奏された雰囲気がマッチしているように感じられたので、やはりあまり速いテンポでは弾かないほうが良いのかも知れませんね。
    先にコメントされていた、平田さんの「低音の人がゆったり鳴らして、上の人が華やかに歌う~」のお言葉、この曲の雰囲気に素晴らしくピッタリですね。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      この曲は3拍子ですのでそういう意味では4拍子のアルマンドとは別物ですけれど、雰囲気は似ていますよね。

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