魂の叫び(ビデオ付き)
とにかくすごい曲なんです!
すごいと言っても、演奏時間が長いとか、超絶技巧だとか、そういう要素は全くありません。有名なのか?といえば、おそらくほとんど知られていない曲でしょう。
ゲオルク・ベーム作曲、組曲へ短調よりシャコンヌ。どうですか? ご存じなかったでしょう?
私がこの曲と出会ったのは、もう30年近く前でしょうか。知人から勧められて買った一枚のCDの最後に収められていました。ある日本人チェンバロ奏者のおそらくデビュー版だったかと思います。ひたすら「癒しの甘いメロディー」ばっかり集めた、歯の浮くような選曲です。まだアマチュアだった私は自分を「筋金入りのチェンバロ狂」と称していましたから、そんなCDを私が自分から買うわけがありません。それでも、強く勧められて聴いてみました。
聴きながら思いました。「このチェンバロ奏者、かわいそうに。本当はもっと芸術性の高い、感動的な曲を演奏したいだろうに。CD制作会社の思惑でこんな軽い小品ばっかり弾かされて。」
そして、そのCDの最後が、ベーム作曲の組曲へ短調でした。唯一の本格的な作品です。
それまでずっと聴いてきたそのCDの他の曲とは全然雰囲気が違います。だいたい「ベーム」なんていう作曲家は聴くのが初めてです。有名でも何でもない曲で自分のデビューCDを締めくくるなんて、このチェンバロ奏者はこの曲によほど思い入れがあるのでしょう。(CDの曲順は記憶がちょっと曖昧です。間違っていたらごめんなさい。)
曲は特別技巧的なわけでもなく、でも深い悲しみを湛えて、静かに静かに心にしみ込んできます。アルマンド、クーラント、サラバンド、そして最終楽章がジーグの代わりにシャコンヌという変奏形式の舞曲です。
驚きました! こんなチェンバロ曲があったなんて! まさに「魂の叫び」です。
第1楽章からずっと我慢してきた悲しみが、このシャコンヌの途中でついに耐えられなくなって叫びに変わります。そして舞曲としてはあり得ない突然の沈黙。最後はすべての悲しみも叫びも昇華させる感動的なピカルディ終止。
演奏時間が長いとか、超絶技巧だとか、そういうのが「すごい曲」と勘違いしていた私でした。それが、この曲を知った日を境に、音楽の見方が大きく変わったと思うんです。
では、収録したばかりのそのシャコンヌをお聴き下さい。あなたはこの曲をどう思いますか?
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先生 ありがとうございます!
この曲大好きなのです。
今85才になりましたが、初めて聴いたのは55才ころだったでしょうか。
勤めていた職場で何か嫌なことがあり、主人の車でドライヴしていた時に
初めて聴きました。ヴェームという名前もその時に知りました。
何故か悲しみも憂いも静かに飛び去るようでした。それ以来時々CDで
聴いていました。上段と下段に行き来して弾かれるこの曲をまた何回も聴いたり見たりいたします。ありがとうございました!!!
だいぶ前にリクエストを頂戴していましたが、ようやく収録できました。
この曲は、初めて聴きました。ヘ短調という調が、悲しみと厳粛さを際立たせていると感じます。
八百板さんのおっしゃる通り、突然の沈黙に身がすくみ、最後のピカルディ終止で、
闇路に天上の光が射してきたように、ほっと安らぎます。
パッサカリアとシャコンヌの違いはよくわからないのですが、バッハの作品で
パッサカリアといえばオルガンのための「パッサカリアとフーガ」、
シャコンヌといえば無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番の「シャコンヌ」ですね。
バッハのシャコンヌと、ヘンデルのクラヴサン組曲第7番のパッサカリアは、
最初の楽章からジーグまでがシャコンヌ・パッサカリアの「前奏」に感じられるほどで、
組曲の最後に置かれたシャコンヌ・パッサカリアに、作曲者の魂の奥底が表現されていると思います。
その一方で、うろ覚えなのですがフランソワ・クープランのクラヴサン組曲で
パッサカリアの後に小品を置いて締めくくる組曲があったと思うのですが、
組曲の様式の違いと同様に、ドイツとフランスの国民性の違いかもしれません。
昨年11月の、フローベルガーのトッカータのビデオもそうでしたが、
いつもの緑色のチェンバロでなくて、スコヴロネックのチェンバロですね。
バッハより古い時代のドイツのチェンバロ曲には、この楽器の音色がふさわしい、と
お考えになったと思います。
残念ながらパソコンのスピーカーでは、音色の違いが充分に聴き取れませんが、
スタジオで生演奏を拝聴すれば、きっと楽器による違いが判ると思います。
バロックの初期中期の作品をこのチェンバロで弾くことにしています。
組曲の最後にシャコンヌやパッサカリアを置くのは、フランスに由来する習慣です。同じ和声がずーっと繰り返されると、聴き手は一種の陶酔状態になるんですよね。
有難う御座いました。確かに美しい曲ですね。
この曲とは直接関係無い話ですが、
昨日、石川日独協会の講演会で、石川在住で、
ドイツでチェンバロ製作のマイスターを取られた方の
「ドイツのマイスター制度」と言う講演が有りました。
こちらに帰って来られてからはチェンバロ製作は1人でできないそうで
ピアノの調律やチェンバロ演奏会の企画をされているそうです。
金沢のかなり山の方で、金沢古楽堂と言う店を経営されて居て、
ドイツのノイペルト社との共同制作でフレンチモデルチェンバロ(ブランシエ)を
貸し出しされている様です。一度聴きに行こうと思って居ます。
コメントありがとうございます。
地方でもチェンバロを広めようと活動なさる人がいるのは心強いですね。
何といっても生のチェンバロの音を直接聴くことができるのですから。