バッハのユーモア(ビデオ付き)

バッハって、真面目な作曲家だという印象を持たれていますよね? ふざけた曲なんて書かなかったんだろうって。

でも、思いっきりふざけまくった「農民カンタータ」など、いくつか例外的な曲も残されていることをご存じの人もいらっしゃるでしょうか。

私もかつては「ふざけた曲が例外的にあった」という知識だけは頭の片隅に置いておきながらも、それが自分の演奏に影響を与えることなく、ひたすら真面目なバッハばかり弾いていました。

ところが、単に楽譜の表面をなぞるだけでなく、それぞれの曲の音符一つ一つを深く掘り下げようとしていく中で、どうも納得のいかないことが出てくるようになりました。「ここを真面目に表現しようとするなら、もっと別の音符のほうが効果的じゃないか」などと思うんです。でもバッハが書いた楽譜より私が書き換えたほうが芸術的だ、なんていう思い上がりはできません。けっこう悩みました。

あるとき、ふと思いついたんです。「これって、もしかしてバッハがわざとふざけているんじゃないの?」と。

そういう目で楽譜を見直してみると、たくさんの悩んだ箇所が納得できます。普通なら「ジャーン」と感動的に終わるところが、尻切れトンボみたいに唐突に短い音で立ち去ったり。それまで半音階も含みながら流れるように進んでいた音楽に、何の脈絡も無く細かい機械的な音型が割り込んできたり。

 

有名な「イタリア協奏曲」もそうだと思うんです。

第1楽章は本物の協奏曲をよく真似していて、合奏のところは2段チェンバロの下鍵盤で大きな音で弾き、ソロの部分は左手の伴奏が小さな音の上鍵盤に移動します。2段チェンバロを巧みに使って、チェンバロ一台で協奏曲を表現しています。

ところが第3楽章が変なんです。ソロの部分になると、伴奏の方を大きな音で弾くように指示されているんです。この楽章全体を通して、ずっとそうです。細かい音のソロが聞き取りにくくて、「どうしてバッハはこんなことをするんだろう?」と、私はずっと悩んでいたものです。

その答をビデオで解説しました。3分弱ですからどうぞご覧下さい。

上の解説を踏まえて、この楽章全体の演奏もお聴き下さい。

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バッハのユーモア(ビデオ付き)” に対して6件のコメントがあります。

  1. Y.M. より:

    第1ヴァイオリンが20人もいるモダンオーケストラによる演奏でなくても、
    やはり協奏曲(ピアノ協奏曲を除く)は、ソロ楽器の音量は合奏より小さくなりますね。
    だから「クラヴィコード協奏曲」のCDが発売されないのでしょう。
    (もし作曲者がソロ楽器としてクラヴィコードを想定していたとしても)

    ビデオの1分を過ぎたあたりで、右手のソロが上鍵盤、左手のトゥッティが下鍵盤で弾いてから
    同じ旋律を右手のソロが下鍵盤、左手のトゥッティが上鍵盤で弾く箇所は、
    バロック音楽に特徴的な「対比」を強調するための表現だと感じました。

    バッハのユーモアといいますか、「今の私の精一杯」のページの
    八百板さんのコメントの
    >バッハは2段チェンバロの表現の可能性を広げたかった
    の通り、2段チェンバロの表現の可能性を探求していく道のりの中で
    「そうだ、ソロがとても小さな音で演奏する箇所があってもいいんじゃないか?」
    ということに考え至ったのだろうと思います。

    そもそも2段チェンバロは、ピアノと違って打鍵の強さで音量に変化をつけられない
    (と書いてあるWebページが非常に多い)チェンバロで、上鍵盤(弦を1本だけ鳴らす)と
    下鍵盤(上鍵盤の弦を同時に鳴らすことができる)で音量の大小の変化をつけるために作られた
    というよりは、パイプオルガン(それぞれの鍵盤に独自のストップが配置されている)
    と同じように、上鍵盤と下鍵盤で、音量よりも音色の変化をつけることが目的だった
    のではないかと思います。
    下鍵盤の8フィートだけを鳴らした時、上鍵盤の8フィートを鳴らした時とは
    違う音色で鳴ることは、八百板さんのビデオを拝聴して、理解しているつもりです。

    1. 八百板 正己 より:

      とても丁寧なコメントをありがとうございます。
      おっしゃるように、下鍵盤で2本の弦を鳴らすとき、確かに音量も増えますがそれはせいぜい2倍以内です。
      音量そのものよりも、何と言うか「ボリューム感」とでもいう感じですね。
      ヴァイオリンが1人から2人のユニゾンに増えた時も、実際の音量は2倍だけですが、その存在感はずっと増します。音色も明らかに変わります。

      1. Y.M. より:

        鳴る弦の数を変えることの効果を求めたのは、グランドピアノもそうですね。
        打鍵の仕方で音量を自由に変えることができるにもかかわらず、3本ある弦のうち
        1本か2本だけを叩くソフトペダルがあるのは、鳴る弦の数を減らすことによって
        単に音量を小さくするのではなく、音色を変化させるのが目的だと思います。
        名前通りにソフトな音色になるのかどうかは、私の耳ではよくわかりませんが。

        1. 八百板 正己 より:

          本当にソフトになりますよ。録音ではあまり良くわからないかもしれませんが、実物を目の前で聴くとはっきり分かります。

  2. りこ より:

    今日、小学生のバッハのインベンションのレッスンで、「ヘミオラ」をやっておりました。ヘミオラでなく感じた場合、ヘミオラで感じた場合、「おもしろーーーい!バッハってユーモアのある人なんだねー。感じ方が変わると雰囲気がかわるって不思議ーー!」ですって。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      子供さんの感性はいいですね! 大切に育ててあげて下さい。

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