2時間もカラスの羽と

先日、近所を散歩していて拾いました。かなり長めのカラスの羽です。やった!

カラスの羽なんか拾って、何が嬉しいのかですって?

これ、チェンバロのメンテナンスに必要なんです。チェンバロは小さな爪で弦をはじいて音を出しますが、その爪の材料なんです。軸の部分を削って、幅2mm、厚さ0.3mmくらいの板状に加工して使います。現代では世の中のチェンバロのほとんどはプラスチックの爪が使われています。でも、肝心の音色を左右する重要な材料を安易に化学製品に置き換えるのは、少なくともプロの仕事ではないと思っています。

そういう私も、チェンバロ奏者として駆け出しのときに作ってもらったこの写真のチェンバロは、はじめはプラスチックの爪だったんですけどね。でもあるとき一念発起して、180本ある爪を全部引き抜いて、鳥の羽で作った爪に自分で交換しました。

その時にはまだ「鳥インフルエンザ」が問題になる前だったので、海外から白鳥の羽を買うことができました。でも、その後まったく手に入らなくなったので、日頃から散歩がてらカラスの大きな羽が落ちていないか探すようにしています。

などと以前もブログに書いたことがありますが、それを覚えていてくださったお客様から時々、カラスの羽が贈られてきます。ありがたいことです! そんなふうにしてもう数年分の羽の蓄えがあるので、最近は私自身はあまり真面目にカラスの羽拾いを頑張らなくても済んでいます。

それでもこれだけ長い羽が落ちていると気が付きますね。拾って嬉しくなりました。「さあ、これを使って早速、弱くなりかけている爪をみんな交換してしまおう!」

 

じつはここ3週間くらい、収録のスケジュールの関係で、このチェンバロの爪はメンテナンスしていなかったんです。練習だけなら少々爪が弱っていてもできるので、忙しいとつい後回しにしてしまうんですよね。

で、このチェンバロで久しぶりの収録をするにあたって弱っている爪を調べてみると、なんと15本も! こんなにたくさんの爪を交換するには結構時間がかかります。後回しできる作業は全部翌日以降に回して、昼間のうちに時間を確保しました。

まあ、作業自体はもう慣れたものですから、2時間で15本の爪の交換が全部終わりました。爪1本あたり8分。まあまあのペースです。カラスの羽は結局2本半使いました。

すべての音がしっかり美しく鳴るのって、いいですよね。って、楽器として当たり前のことですけれど。その美しい音で最後の練習をして、ビデオ収録しました。

お聴き下さい。バッハが長男のために作ってあげた前奏曲ト短調です。

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2時間もカラスの羽と” に対して4件のコメントがあります。

  1. T.h より:

     おはようございます!

    随分長い間、カラスの羽のことは忘れていました。
    今回のブログで「そうだった」と思い出しました。新鮮で豊かな
    音色を楽しみました。
     
     昨日いただいた「ニュースレター」の中にあったきれいなチェンバロ(ファビー)にもやはりカラスの羽が使われていたのかな?など思いました。
    音が聴けたらいいですね!!!

    1. 八百板 正己 より:

      ありがとうございます。
      昔はプラスチックなんかありませんから、チェンバロの爪は全部鳥の羽でした。
      今博物館に収蔵されている楽器は、博物館の使命からして、おそらく鳥の羽を使っているのではと思います。

  2. 星野裕子 より:

    カラスの羽1本当たり、爪が5枚くらい、でしょうか? いつも「ニュースレター」を送って頂いているお礼といってはなんですが、私も羽を探してみたくなりました。
    いつもより心なしか、音がしっかりしているように感じられました。web上だけでなく、ぜひ生でも聴いてみたくなりましたが、先生は今後、生の演奏会を復活される御予定はおありでしょうか。

    1. 八百板 正己 より:

      無理に羽の端の方まで使おうとすると音が不自然になります。かといって一番いいところだけ使っていると羽がいくつあっても足りません。音を聞きながら両者のバランスを取って使っています。
      CDなどの録音でも、鳥の羽を使っているかどうかは私は聞けば分かりますよ。

      生の演奏会はコロナの今後しだいですね。チェンバロスタジオでお客様一組限定のプライベートコンサートはそろそろ始められるようにと考えていますけれど。

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