パイプオルガンの調律に8時間(写真付き)
私のお城「見附チェンバロスタジオ」のすぐ近くにある教会から、パイプオルガンの調律を頼まれて行ってきました。
チェンバロスタジオを作ってから18年、「この教会に小さなパイプオルガンがあるらしい」と聞いていた私はずっと気になっていたんです。でも、信者でもない私にはコネも無いので、「見せてください」「弾かせてください」と言うのも何だしなあ、と思って何もしないで今に至っていました。
それが、突然調律依頼の電話を頂いたんです。ずっと調律を頼んでいた人が高齢で廃業してしまって、それ以来5年も調律をしていないとの事です。音の狂いがどうにも我慢できなくなったのでしょう、私が新潟県内の他のパイプオルガンを調律した、という記事をネットで見つけて連絡を下さったそうです。
その電話でも「小さなオルガンが」と言っていたので、まあ3時間くらいあれば調律できるかな? と思って引き受けました。
ところが案内されてオルガンを見てみると・・・
「小さい」なんてとんでもないですよ。昔ながらの本格的な機械式アクションの8ストップの立派なオルガンです。銘板を見ると、イタリアで50年ほど前に作られたようです。鍵盤は一段ですが、ストップの配列を見ても、イタリア・バロック様式のオルガンに忠実に、わざと一段鍵盤にしたと考えられます。
「これは時間がかかるぞ」と覚悟しました。
そして作業を始めてみると、さらに時間がかかることが判明!
写真でも奥の方にたくさんのパイプが写っていますね? 現代の普通のオルガンだと、調律で奥に手を入れるために作業用の窓がオルガンの横や裏に付いているものです。
ところが、このオルガンは手前のパイプを取り外さないと奥のパイプをいじれないんです(写真は2ヶ所のパイプを数本ずつ外したところ)。でも、調律の基準とするのは手前のパイプ列です。手前のパイプを何本か外して奥に手を入れて調律したら、外した手前のパイプを元に戻して、今度は別のパイプを外して奥に手を入れる隙間を作る、そんなことの繰り返しです。
しかもです、今にして思えば私もうっかりしていたのですが、その外したパイプを床に置いたものだから、その間にパイプが冷えてしまいます。元に戻して調律の基準として鳴らすと音程が少しだけ低くなっているわけです(管楽器の音程は楽器の温度によっても上下します)。これが原因で、合っていると思った音がまた狂っている、それを合わせたと思ったのにまた狂っている、そんなことで2時間は遠回りしましたね。
結局、予定していた日の午後だけでは調律は終わらず、予備日として取っておいた2日後の午後もいっぱいに使って、8時間かかってどうにか合わせることができました。
ただ一つ助かったのは、2フィートや1フィートといった高次倍音のパイプが、何年間も全く使っていなかったと思うくらいに狂っていなかったことです。これらを全部本格的に調律することになったら、8時間どころか、20時間あっても足りなかったかもしれません。
本当は、調律は手際よく済ませて、予備に取っておいた日は「慣らし弾き」と称してたっぷり演奏を楽しみたかったんですけどね。特に、イタリア・バロックのオルガンの巨匠フレスコバルディの曲なんかを弾いたら素晴らしいだろうな、と楽しみにしていたんです。
オルガンでフレスコバルディを弾くのは当分お預けになりましたが、代わりに収録したばかりのチェンバロによるフレスコバルディをお聴きいただきましょう。
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おはようございます!
見附市の教会に大きなパイプオルガンがあるのですね!
2019年6月に見附の教会でコンサートがあって聴きにいきましたが、その教会のオルガンではなさそうです。もしかしてそこで練習やコンサートが開かれるようになるといいですね。見附は雪も多いですが、山があり桜、紫陽花、イングリッシュガーデン、・・・があって、チェンバロスタジオがある。いいところですね!
これはカトリック見附教会です。コンサートなどは全くしていないそうです。
見附の良いところを挙げてくださって嬉しいです! 雪がけっこう多いですけれど。
読んでいるだけで、苦労が手に取るようにわかりました。
メカニカルアクションの8ストップは立派ですね。
この類のオルガンがメンテナンスできなくなって廃棄されてしまうのが心配です。ぜひ継続的にメンテナンスしてあげてください。
今回の苦労の一つ一つが良い勉強になりました!
だいぶ傷んでいるパイプも少なくないので、一度専門家に頼んでオーバーホールしてほしいものです。神父様にも強く訴えてきました。
りゅーとぴあのオルガニスト、石丸さんに頼まれて、1オクターブのパイプオルガンのモデルを製作しています(トラッカーアクション、吹子送風)。子どもへの教育用です。パイプは作れないので、3種類、山口県にあるオルガン工房に作ってもらいました。石丸さんは他にも工房をいくつか知っているので、パイプの修理は頼めると思います。損傷の大きなものから少しずつ直してはいかがでしょうか。
情報ありがとうございます。
それにしても、林さんの楽器製作熱が健在で嬉しいです!
チェンバロスタジオの近くにこのような立派なオルガンを備えた教会があるとは‥存じ上げませんでした。
コンサートはされていないという点は少し残念ですが、とても貴重な財産ですね。その貴重な財産の維持に先生がご寄与なさっていることに深く感銘を受けました。
また、技術を持つ人がいないと、せっかくの素晴らしい楽器を好ましい状態で後世に残すことができないということにも改めて気付かされました。
オルガン好きにとってはこの上なく胸がときめくご投稿を、どうもありがとうございました。
どういたしまして!
楽器の維持には、技術だけでなく、お金も必要なんですよ。この楽器にはオルガンの専門家でないと直せない傷みもけっこうあるのですが、それには100万円では済まないらしいです。
林さんのコメントを読んで思い出したのですが、
新潟市のカトリック寺尾教会に前あったパイプオルガンが、
メンテナンスしきれなくなったのか撤去されてしまったようです。
電子オルガンの方がメンテナンスが楽なのだろうと思いますが、
教会からパイプオルガンがなくなるのは、残念なことです。
日本だけでなく、アメリカでも同じことが起こっていると、昔プリトニク先生が言ってました。アメリカの教会も高齢化が進んでいるようです。電子楽器に置き換えても、修理は10年以上経つと不可能になりますよね。
電気部品を多用したオルガン、合板やプラスチックを多用したチェンバロ、いずれも現代工業化社会の消耗品です。作ってから半世紀後に修理する、という発想がありませんから、傷んだら捨てるしかありません。
結局、手間がかかるようでも昔ながらの楽器が一番長持ちするんですね。
八百板先生、お久しぶりです。そして先生のお話だけでなく、皆さんの投稿を読ませて頂き、パイプオルガンが(しかも新潟市内の教会で)廃棄されていたなんて、廃棄されるくらいなら私が欲しいなあ、と思いました。ただオルガンを入れる場所がどうしても必要なのですが・・。そしてそれは経済的にも難しい・・、二の足を踏みます。経済力のない私には無理、と思ってあきらめてきました。(その点でも石丸さんはすごいなあと思います。)以前、私の所属していた福音派の教会のリードオルガンを、捨てるにもお金がかかる、という話が入ってきて、私が引き取って我が家に置きました。二台あります。自費で数万のお金をかけて、メンテナンスもしていただきました。(たぶん先生のお話の中にあった調律をされていた方?)(一台は今故障して修理が必要。)私はそのオルガンで、新潟バッハの通奏低音のオルガンの練習を始めました。懐かしいですね。最初は、Chrite eleison(ロ短調ミサ曲)からでした。何度弾いてもうまく弾けず、半泣きで練習しました。足を悪くしてからは電子オルガンでの練習にかえましたが。でも本物の音はやはり違います。疲れませんし、いくらでも練習できます。楽器が人を育てる、と聞いたこともあり、それは大きいと思います。(電子音は疲れます。スピーカーから強力な磁力が出ていると説明書に書いてあるので、健康にどのような影響があるのか心配も少しあります。どなたかご存じの方があれば教えてください。)それにしても、八百板先生のフレスコバルディの演奏がとても素晴らしいと思ったので、コメントを送ろうと思ったのです。(以前よりももっと?)垢抜けした演奏に聴こえました。それとも最近、練習で自分の演奏ばかり聴いていたので、久しぶりに先生の演奏を聴いてその素晴らしさに感動したのかもしれません。良い演奏を聴くこと、そして本物に触れること、大切だと思いました。ありがとうございました。またよろしくお願いいたします。
ご丁寧なコメントをありがとうございます。
電子音より生の楽器の音がいいのは絶対です。といいながら、私はインターネットで演奏を配信していますけれど。
フレスコバルディの演奏、褒めてくださってありがとうございます。コンサート活動していた時よりも、一曲一曲にたっぷり時間をかけて吟味して仕上げているからだとおもいます。
充分にその成果が伝わってきました。
家合さん、お久しぶりです。
と書いても直接お会いしたことはなく、新潟バッハでいつもオルガンを弾いて
おられましたね。あの方が家合さんだと遠くから拝見しておりました。
二台もオルガンをお持ちとはすごいですね!
私がパイプオルガンを聴いたのはメルパルクのオルガンでした。今はないですが。弾けないけれど何回か足を運びました。
また演奏されるようになるといいですね。
なんと有り難いお言葉…!ありがとうございます。オルガンは二台と言っても、小さな足ふみオルガンです。だから中古の木造住宅でも入れることが出来ました。(しかも一台は今故障中。)たぶんそれは、戦後、アメリカやカナダからの宣教師の先生が持ち込まれたものかと思います。残念ながら、教会はそれを要らないといって、礼拝の楽器を電子ピアノに変えてしまわれたようです。もちろんすべての教会がそうだとは思いませんが。また、パイプオルガンはやはり、教会にとってもぜいたく品なのでしょう…?ただ礼拝は、信仰者にとってどうしても必要な、大切なことなので、礼拝が音楽とともにあった歴史を考えると、聖書の中の、マリアの”ナルドの壺”のようなことがあっても良いかと思うのです。そうは言いながらも、私も色々な葛藤を抱えながら、でも毎日のようにオルガンの練習を続けています。一人でも、いつか聴いてくださる方があれば、有り難いです。励ましを頂きました。そして、T.hさんもまた、オルガンに触れることが出来たらいいですね。ありがとうございます。
お返事ありがとうございました。
私の中学時代の音楽室はグランドピアノがあって、大勢で昼休みの時間に取り囲んでいたのをよく覚えています。小学校の頃は多分オルガンが多かったのではないかと思います。市島邸へ行くと大きなペダルの足踏みオルガンが展示してあってよく写真に撮ってきていました。説明によると小学校でも使われ、ピアノの時代にまたここに戻ったのだそうです。(今は修理が必要のようでした。)
何故か見ると懐かしいのです。
オルガンを弾かれる家合様はお体を大切にされてください。
また聴ける日がきますようにと願っております。
ありがとうございます。足踏みオルガンはかつて小学校でも用いられていたということなのですね。私が学生の頃、(かといってもう、?十年も前のことですが)”二十四の瞳”の舞台となった小豆島の小学校跡地を訪れたことがあるのですが、誰もいなかった教室に小さな足踏みオルガンが置いてあって、(妹と二人で行ったのですが)少しだけ弾かせてもらって帰りました。(ばらしてしまいましたが。)映画の”塩苅峠”の中でも、確か主人公の婚約者だったフジコさんでしょうか?が、足踏みオルガンを弾いていたシーンがありました。でもあれは教会ですね。少し話がそれてきたでしょうか。暖かいお言葉をかけてくださり、ありがとうございます。T.hさんも守られますように。また皆様も。
パイプオルガンオルガンのお話、
興味深く拝見しました。
私も教会に属する者なのですが、
どこの教会も高齢化が進み、
国全体の経済も悪化し、
音楽や楽器の価値を考える余裕や
文化がないのが
とても残念です。
そんな中できちんと調律しようという
教会があって、
先生がしっかり作業してくださったことに
勇気づけられます。
それと、フレスコバルディの演奏!
ステキです‼
この楽器はスコブロネックでしょうか!?
はい、スコブロネックです!
これから、バロックの初期と中期の音楽をこれで収録していきます。
どうぞお楽しみに。