バッハを練習して腰痛

つい先日のことです。朝起きると腰が痛いのです。ぎっくり腰になりそうな感じです。

今までも、例えばチェンバロを車に積む時にいい加減な持ち上げ方をした時などに、こんな感じにぎっくり腰になりそうになったことは何度かありました。でも今回は寝ている間に何をした覚えもないし、前の日の行動にも心当たりはなかったし。どうしたんだろう?

とにかく腰をいたわりつつ、チェンバロスタジオに出勤し、チェンバロの練習を始めました。曲は、週末にビデオ収録予定のバッハのゴルトベルク変奏曲から第5変奏です。

すると、ある特定の小節にさしかかると「ピキッ」と腰が痛むではありませんか! 腰が痛くなる特定の小節には、「両手が交差して、かつ両手ともに高い音を弾く」という共通点がありました。そうか、これが原因だ!

ここで少し技術的な解説を。両手が高い音を弾く時、普通に椅子に座っていたのでは、手の向きが楽器に対して斜めになりますね。これでは美しい音が出せないので、少なくとも手首を水平面内で左に曲げることで手首から先の部分が楽器に対して正面を向くようにします。でもこれだと指を動かす腱の動きを手首が邪魔するので、理想は両腕が楽器に対して正面を向くことです。といっても演奏中に座り直すわけにいかないので、左のお尻を椅子から浮かせて上半身が右に傾くようにして、でもそのままだと両肩の高さに差が出てしまうので、腹の辺りで上体を左に折って、両肩が楽器の高音域の正面で水平になるようにします。右に大きく傾いた体を支えるために、右足は初めからいつもよりも右側に置いておきます。

この「上体を横に傾けても肩は水平にする」のは、腰への負担を減らすのにも役立っているようです。楽器の練習では、うまく弾けない部分だけを取り出して長時間繰り返し繰り返し弾くことになりますから、無理な姿勢は意識して避けないといけません。

いつもの私ならこの姿勢は当たり前のようにできているのですが、うっかりしていましたね。バッハにはほとんど出てこない両手の交差(左手の方が右手よりも高い音を弾く)に気を取られて、しかもその部分がうまく弾けないから長時間練習を繰り返すうちに、いつのまにか姿勢がいい加減になっていたのでした。

それにしても、前にこの曲を弾いた時には腰痛なんて起きなかったのに、しかも今の方が姿勢に気をつけているというのに、どうしたことでしょう? 要するに「無理がきかない年齢になった」ということでしょうね。でもいいんです。無理な姿勢で弾いて腰痛にならなかったとしても、いい音は出せていないはずですから。それに、体が無理をしているという事は、演奏にもどこか余計な力が入っているはずですから。「無理がきかない年齢」を「美しい演奏のための決まりごとを守らざるを得ない年齢」とプラスに考えればいいんです。

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バッハを練習して腰痛” に対して11件のコメントがあります。

  1. T.h より:

     おはようございます!陽の光のあふれる朝になりました。
    腰痛が早く治られますように!

     先生の演奏のお姿はいつも背筋をピンと伸ばして弾いておられると見ていました。

     いろいろな方の演奏をテレビなどで見ていますと姿勢もさまざまです。
    なかでもグレングールドの演奏のようすはびっくりして頭からはなれません。曲への解釈などが体にもあらわれるのでしょうか?

     
     曲想の赴くままに自由に弾かれればいいのではなど思っています。

    1. 八百板 正己 より:

      ありがとうございます。
      グールドのような姿勢で弾いて美しい音を出すには、よほど基礎が身についている必要があるのではと思います。チェンバロの場合は鍵盤が軽いですから、余計な重さがかかって音が悪くならないように、背筋を伸ばすのが鉄則でしょう。

  2. 岩田公雄 より:

     八百坂 様、早く腰痛が治まりますように願っております。
     私は、2019年6月から、フルートを習い始めました。というのも、同年3月に、左耳に突発性難聴を発病し、一週間入院しました。幸いなことに、発病後一日目から、朝晩、ステロイド剤の静注の治療で、2,000 Hzぐらいまでは、完全回復しましたが、3,000 Hz 以上は、聴こえ難くなりました。左右でバランスが崩れています。目眩はありません。
     入院中、スマホで、音楽を聴いていました。なぜなら、愛知県の岡崎市にある国立の研究所の論文に、突発性難聴には音楽を聞かせるのが良い、しかも、広い音域で、例えば、フルオーケストラのような・・・
     しかし、私の場合、弦楽器の音は、高音になると、音が割れて、左耳の中で飛び跳ね回る、という現象が出ました。
     けれども、木管楽器、特にピッコロの高音は、音割れせず、飛び跳ね回ることもなく、聴こえました。
     そこで、退院後、左耳の訓練という意味合いも兼ねて、音楽教室へ通うことになったわけです。
     いろいろ、八百坂様には、ご案内を送って貰いますが、演奏の CD を買おうかな、という以上には、・・・申し訳ありません。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      突発性難聴の発病というピンチを、逆に楽器を始める機会に変えてしまうとは、何と前向きなのでしょう! フルートは素敵な楽器ですよね。私も子供のころに一時夢中になりました。ぜひ素晴らしい世界を開いて下さい。

  3. 長野なお美 より:

    八百板先生、おはようございます。
    速やかな腰の癒しを
    お祈りします!
    先生の滑らかに演奏されている
    お姿の内部は、
    さまざまな体の部分が
    連携して大変な動きを
    していたのですね?

    ヨガの効果が
    ありますように。

    くれぐれも
    お大事になさってください。

    1. 八百板 正己 より:

      お気遣いありがとうございます。
      ヨガはここ数日控えていまして、その代わりにツボ押しをしています。20年近く昔に買った本があるのですが、腰痛のページは初めて開きました。

  4. 家合映子 より:

    すばらしい、と思いました。先生の前向きな考え方に私も励まされます。

    1. 八百板 正己 より:

      ありがとうございます。オルガンは足鍵盤を使う時に腰の使い方が要注意ですよね?

      1. 家合映子 より:

        腰を傷める人が多いと聞きます。私は先生から体操を教えてもらいました。

        1. 八百板 正己 より:

          私も腰を丈夫にするためにヨガを続けます。

          1. 家合映子 より:

            とても良いと思います。

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