チェンバロと電気ストーブ

寒くなりましたね!ストーブの季節到来です。でも今日はちょっと変わったストーブの話題です。

チェンバロは温度計湿度計みたいなものです。部屋の温度が上がると金属でできた弦が伸びて弦の張力が下がるので音が下がります。部屋の湿度が上がると木でできた響板(弦が張ってある部分の薄い板)が膨らんで弦の張力が上がるので音が上がります。なので、チェンバロの調律を始める前には、部屋の空気が心地よい温度湿度に安定している上に、楽器も部屋の空気に良く馴染んでいる必要があります。そうしないと、調律をしている端からどんどん狂って、いつまでも調律が終わらないのです。

冷暖房を殆ど使わないで済む春と秋はチェンバロの調律も楽ですよ。1日の中で部屋の温度があまり変わりませんからね。

じつは夏も楽なんです。昼間は冷房をつけて部屋を冷やしますが、夜は外気温がそのくらいに下がってくれるので、結果としてやはり1日の中で部屋の温度があまり変わりません。

困ったのが冬です。朝、見附のスタジオに出勤すると、楽器が完全に冷え切っています。出勤してから暖房をつければ(以前使っていたエアコンは性能が低かったのでタイマーのきかない石油ストーブを併用していました)部屋の空気は1時間くらいで安定しますが、そこからチェンバロが温まるのに3時間以上もかかるんです。

チェンバロは木でできた箱のようなものですが、その中の空気がなかなか温まらないのです。ヴァイオリンもギターも箱のようなものですが、木が薄いからすぐに温まって、中の空気も温まるのでしょう。(ちなみにピアノはチェンバロよりもっと分厚い木でできていますが、じつは箱になっていません。響板の表も裏も外気にむき出しです。)とくにコンサートなどで楽器を運ぶときには困りました。大切なリハーサル時間全部を使っても楽器が温まらないのですから。

もう10年以上前のこと、ついに我慢ならなくなって対策を考えました。箱の中の空気を暖めるには、箱の底の板だけでも十分に暖めればいいのだとひらめきました。そこで、電気ストーブを床に寝かせて、楽器の底板に赤外線を当ててみることにしました。電気ストーブの光が当たる範囲は限られているので、楽器の底板を手で触って温度を確かめつつ、6~7ヶ所に移動させて満遍なく底板を温めるようにしました。

これで解決しました。楽器の温度が安定するのに3時間もかかっていたのが、30分に短縮されたのです! もしかしたら楽器に電気ストーブの光を当てるなんて、楽器にとっては良くないことなのかもしれませんが、そんなこと言っていられません。昔のヨーロッパの宮殿だって、チェンバロのある部屋に暖炉があればやっぱり赤外線は当たったでしょうしね。

それ以来、その電気ストーブはチェンバロを暖める専用にして、ひとつ細工をしました。何だと思いますか?

電気ストーブを寝かせると、地震対策で底面から突き出ているスイッチが宙に浮くので電源が切れてしまいます。そのスイッチをガムテープで固定して、どんなに傾けても電源が入ったままになるようにしたのです。本当に火事になっては大変なので、この電気ストーブは楽器を暖めること以外には使わないようにしています。

最近の電気ストーブの中には、底面にスイッチが突き出ているのではなくて、姿勢を感知するセンサーが内臓のものがあります。そういう高級なストーブだと、ガムテープでごまかすわけにいきませんから、チェンバロを暖めるのには使えません。文明が進むのも良し悪しです。

さて、昨年の夏にスタジオのエアコンが壊れて新しい機種に買い換える際、暖房能力の高いものを選びました。出勤時刻の2時間前にタイマー予約をしておけば、暖気が楽器の下に十分に行き渡って、出勤したときには楽器全体がよく温まっているのです。エアコンは10年以上も経つと性能がこんなに良くなっていたんですね。それでも、楽器を外に持ち出すときには愛用の電気ストーブはこれからもずっと必需品です。単純な作りで、壊れそうな部品もありませんから、きっといつまでも長持ちしてお世話になることでしょう。

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チェンバロと電気ストーブ” に対して2件のコメントがあります。

  1. T.H より:

    おはようございます。
    チェンバロ演奏は見えないところでいろいろの配慮がなされているのですね。

    今日は高崎市で演奏されるようですが、電気ストーブも持参されるのでしょうか?

    ストーブはいつも演奏が聴かれていいなあと思います。
    予報では、道中雪があるのではと思いました。

    どうぞいい演奏をされて無事お帰りくださいませ。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      はい、電気ストーブは高崎にも持っていきました。
      道中は雪でしたが、冬タイヤに替えてあったので助かりました。高崎はすばらしい晴天でした。

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