2008年8月から11月まで、 全4回にわたっておこなった公開講座 「バロック舞曲の演奏法と鑑賞法 ~ バッハのフランス組曲を中心に」の最後に、 総復習を兼ねて「知らない組曲を予測しながら聴く楽しみ方」をデモンストレーションしました。 その様子を再現します。

最初は前奏曲か?アルマンドか?

「さあ、これからバッハのある組曲のCDを鑑賞しましょう。 楽器はリュートですが、曲名は秘密です。」
(CDをセットする)
「この組曲はどうやって始まるのでしょう? フランス組曲のように、いきなりアルマンドで始まるでしょうか? それとも、その前に前奏曲があるでしょうか?」
(CDを流す)
「おっと、即興的ですね! これは流れるようなアルマンドではありませんね。ということは前奏曲です。」
(CDをしばらく聴く)
「付点音符もたくさん出てきて荘重ですね。実はこのようなリズムはフランス風序曲と呼ばれるものの典型なのです。前奏曲というタイトルですが、これがフランス風序曲を意識したものなら、途中で速いフーガに変わるはずです。」
(CDをしばらく聴く)
「おっと、フーガになりました! これはフランス風序曲を意識した前奏曲でした。」
(CDを中断)

次はアルマンド

「さて、前奏曲の次はアルマンドですね? このような荘重な前奏曲に導かれるアルマンドはどんな感じなのでしょう?」
(CDを流す)
「おや、アルマンドなのに付点音符がたくさん出てきますね。実はこのようなアルマンドはパルティータの6番にも例がありますが、バッハの独創ではないかと思います。」
(CDを中断)

次はクーラント

「さて、アルマンドの次はクーラントですね? フランス風の遅めで格調高い3/2拍子のクーラントでしょうか? それともイタリア風の速いクーラントでしょうか? 聴いてみましょう。」
(CDを流す)
「格調高い3/2拍子ですね! フランス風クーラントでは、3/2拍子と6/4が頻繁に交替するのが特徴でしたね? この曲はどうでしょう?」
(CDをしばらく聴く)
「終止の小節でしか拍子が変わりませんね。バッハは拍子の交替にあまり興味が無かったのでしょうか。」
(CDを中断)

次はサラバンド

「クーラントの次にくるのはサラバンドでしたね? このように荘重な楽章が続いた後にはどんなサラバンドが来るのでしょう? フランス組曲第6番のように思いきり和音が厚いゴージャスなサラバンドでしょうか? それともフランス組曲第2番のように内に秘めたサラバンドでしょうか?」
(CDを流す)
「音が少ないですね。最低限の音だけでできていますね。さて、サラバンドでは四分音符+二分音符というパターンと、二分音符+四分音符というパターン、それに両者が交互に来るというパターンがありましたね? このサラバンドはどうでしょう?」
(CDをしばらく聴く)
「ずーっと二分音符+四分音符というパターンだけですね。」
(CDを中断)

次は終曲のジーグか?流行の新しい舞曲か?

「さあ、サラバンドの次は、終曲のジーグが来るでしょうか? それとも、当時流行していた新しい舞曲、特に人気の高かったメヌエットやガヴォットやブーレが挿入されているでしょうか? 聴いてみましょう。」
(CDを流す)
「これはガヴォットですね! 舞踏会でも人気のあった舞曲ですね。ということは、舞踏会で皆が踊り続ける間、2曲のガヴォットを交互に延々と弾き続けた様子を模倣して、この曲も中間部として第2ガヴォットがあるかもしれませんね。」
(CDをしばらく聴く)
「おっと、第2ガヴォットです!  前の曲と雰囲気が変わって、一貫して三連音符で書かれています。これだけ聴くとイタリア風のジーグと間違えそうですね。でもガヴォットから休み無しに同じテンポで続けて演奏されましたから、やっぱり第2ガヴォットでしょう。念のため、はじめのガヴォットにダ・カーポするか聴いてみましょう。」
(CDをしばらく聴く)
「はい、ダ・カーポしました! やっぱり今のは第2ガヴォットでした。」
(CDを中断)

次は終曲のジーグか?流行の舞曲がもう1曲か?

「さて、次は終曲のジーグが来るでしょうか? それとも、当時流行の新しい舞曲がさらに挿入されるでしょうか? 聴いてみましょう。」
(CDを流す)
「これはメヌエットでも、ブーレでもありませんね? ジーグです。バッハには珍しいですが、1拍目に付点音符がある典型的なフランス風のジーグですね。」
(CDを中断)

組曲は先を予測しながらワクワクして聴きましょう

「このように、組曲とはどういうものか、そして個々の舞曲がどういうものかを知っていると、初めて聴く組曲でもプログラムなどを見なくても、いやむしろそんなものは見ない方が、先を予測しながらワクワクして聴くことができるようになります。当時の人々はそのようにして新作の組曲を心待ちにしてはワクワクして聴いていたのだと思います。全4回の講座をお聴きになった皆さんは、バッハの時代の人々と同じように組曲を聴けるという、すばらしい楽しみ方を手に入れたことになります。」

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