2008年11月にバッハのフランス組曲だけからなる演奏会を行いました。ただ組曲を弾くだけでは芸が無いからと工夫を凝らした中の一つが、ここでご紹介する「ナレーション付きの組曲演奏」です。演奏会も無事終わったことですし、恥を忍んで公開します!

フランス組曲第2番ナレーション「ある殿様とお抱えチェンバロ奏者の対話」

【イントロ】
むかしむかし、ドイツのある町に、音楽が大好きな殿様がいました。
ある晩のこと、心配事が重なってなかなか眠れない殿様は、お抱えのチェンバロ奏者を呼んで、気を紛らすためにチェンバロの演奏をご所望になりました。

●チェンバロ奏者:「殿、それでは 組曲をおひとついかがでしょうか? ライプツィヒの音楽監督、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ氏が作りました、フランス組曲の第2番でございます。」
●殿様:「なに、組曲か? あの、踊りの曲を集めたものだな? 組曲は確か・・・ 流れるようなアルマンドで始まる決まりであったな?」
●チェンバロ奏者:「さようでございます。秋の物悲しい雰囲気にぴったりの曲でございます。」
♪演奏:フランス組曲第2番より アルマンド

●殿様:「組曲の2曲目は確か・・・クーラントと決まっておったな?」
●チェンバロ奏者:「さすがは殿、お詳しい。」
●殿様:「クーラントといえば、今は亡きフランスのルイ14世陛下が大変得意にしていた踊りだ。威厳に満ちた曲であろう?」
●チェンバロ奏者:「それがです、殿。最近は我らがドイツにもイタリアから速くて軽いクーラントが入ってまいりまして、バッハ氏のこのクーラントも、流行を取り入れた速いイタリア風でございます。」
♪演奏:フランス組曲第2番より クーラント

●殿様:「組曲の3曲目は確か・・ ・ゆっくりとしたサラバンドと決まっておったな? 重々しいオーケストラのイメージであろう? わしはヘンデルのこのようなサラバンドは好きであるぞ。」
♪演奏:ヘンデル作曲 組曲ニ短調より サラバンドの冒頭
●チェンバロ奏者:「それがです、殿。最近は我らがドイツにもイタリアから素晴しいオペラ歌手たちが大勢やってまいりまして、特にゆったりとした曲を即興で細かい音で飾る技が人気を得ております。バッハ氏のこのサラバンドも、まるでイタリア人が アリアを歌っているような趣でございます。」
●殿様:「なに、またイタリア風か? わしの憧れはフランスだぞ。」
●チェンバロ奏者:「これも時代の流れでございますので。」
♪演奏:フランス組曲第2番より サラバンド

●殿様:「組曲は確か・・・次のジーグで終わるのであったな?」
●チェンバロ奏者:「それがです、殿。最近では・・」
●殿様:「またイタリアか?」
●チェンバロ奏者:「いえ、イタリアは関係ございません。最近では、最後のジーグの前に、はやりの曲などを挟むようになっております。バッハ氏はここで、エールという、4拍子の曲を入れてございます。」
♪演奏:フランス組曲第2番より エール

●殿様:「して、今度こそ最後のジーグか?」
●チェンバロ奏者:「いえ、バッハ氏はここでもう一つ、メヌエットを入れております。」
●殿様:「なに、メヌエット? いつも舞踏会でわしも踊っておる、あのメヌエットか?」
●チェンバロ奏者:「さようでございます。」
●殿様:「あのような流行の踊りまで組曲に入るようになったのか? 時代は変わるものであるな。」
●チェンバロ奏者:「しかもです、バッハ氏はつい最近、追加で第2メヌエットを作りまして、本日はこれも併せてお聴きいただきます。巷に出回っております楽譜にはまだ殆ど載っていない、珍しいものでございます。」
♪演奏:フランス組曲第2番より メヌエットI,II

●殿様:「うむ。昨日の舞踏会が目に浮かぶようであったぞ。して、今度こそ最後のジーグか?」
●チェンバロ奏者:「はい。しかも、殿のお好きなフランス風のジーグでございます。」
●殿様:「おお、フランス風か。 わしも一度でよいからヴェルサイユ宮殿で、本場フランス宮廷バレエのジーグを見てみたいものだ。」
●チェンバロ奏者:「恐れながら、殿のようなご身分では ヴェルサイユに立ち入ることは叶わぬと存じ・・・」
●殿様:「それを申すな! まあよい。せめてそなたのチェンバロで ヴェルサイユに行った気持ちにさせてもらおう。」
●チェンバロ奏者:「光栄でございます。」
♪演奏:フランス組曲第2番より ジーグ

【エンディング】
バッハの美しい音楽を聴いてすっかり心穏やかになった殿様は、その夜、ぐっすり眠ることができました。めでたしめでたし。

あなたが組曲を聴くときにも

これを単なる漫才として片付けるのでなく、今後あなたが組曲を聴くときにはいつでも、バッハの時代に旅をして新作初演に立ち会うような見方をしてみてください。バッハが常に時代を先取りして新しい境地を切り開いたことに気付いて、今まで聞き流していたところにも新鮮な発見があることでしょう。

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