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2段鍵盤の歴史とバッハとの関わり

オルガンで生まれた2段鍵盤

ゴシック期の3種類のオルガン

バロック時代の前はルネサンス時代ですが、そのまた前の中世末期(ゴシック期)に、大きさの異なる3種類のオルガンが現れました。

1.ポルタティフ・オルガン

「携帯オルガン」の意味です。肩から下げて、またはテーブルに置いて、右手で鍵盤を操作し、左手で「ふいご」を操作しました。和音も弾きましたが、小さなアンサンブルの中で旋律楽器としても使われました。

2.ポジティフ・オルガン

「置かれるオルガン」の意味です。今のアップライトピアノくらいの大きさで、聖歌隊の伴奏などを務めました。

3.大オルガン

ゴシック建築の登場によって、教会の内部空間が巨大になりました。その巨大な空間を音で満たすために、天井までそびえる大きなオルガンが作られました。オルガンだけで聖歌隊の代わりを務めたり、聖歌隊と交互に歌い交わしたりできるようになりました。

 

ポジティフ・オルガンと大オルガンの結合

ルネサンス時代になると、北ヨーロッパでは上記の3種類のオルガンのうち、ポジティフ・オルガンと大オルガンが一つのオルガンに結合されるようになりました。これによって、一人のオルガニストがポジティフ・オルガンと大オルガンの両方を一か所で同時に演奏できるようになったのです。

二つのオルガンのパイプは別々の場所にありますが、鍵盤は一か所に集められて2段鍵盤が生まれました。パイプと鍵盤の間は「トラッカー」と呼ばれる「てこ」でつながれて、離れたところからでもパイプへの送風を制御できる仕組みです。

 

エコー効果

教会の天井までそびえる大きなオルガンと、比較的小さなオルガンとを、一人で同時に演奏できるようになったならば、どんなことをやってみたいと当時の音楽家は思ったでしょうか? その一つが「エコー」です。二つのオルガンの音量も音色も極端に変えて設定するならば、教会堂の豊かな残響とも相まって、本物のエコーのような幻想的な響きが得られます。

次の曲は本来オルガン曲ですが、私はチェンバロで演奏しました。

 

ソロ(コラール旋律)と伴奏の対比

教会の天井までそびえる大きなオルガンと、比較的小さなオルガンとを、一人で同時に演奏できるようになったならば、どんなことをやってみたいと当時の音楽家は思ったでしょうか? もう一つが、多声音楽の特定の声部だけを全く違った音色で際立たせることです。特にコラール(ルター派の賛美歌)の旋律を際立たせた「コラール前奏曲」は、とてもたくさん作られました。

次の2曲も本来はオルガン曲ですが、私はチェンバロで演奏しました。2曲目のバッハの曲は奥さんのための楽譜帳にも書き込まれていて、家庭の中でチェンバロでも演奏されていた証拠になっています。

 

2段チェンバロ特有の表現

「タッチで強弱が変えられないから2段鍵盤」は誤り

バロック時代の初期に、オルガンの2段鍵盤の発想で2段チェンバロが生まれました。つまり、全く違う音色どうしを対比するという発想です。

ところが、2段チェンバロの使い方について、以下のような誤解が広く見られます。

「チェンバロはタッチで強弱が変えられないから、アクセントやクレッシェンドやデクレッシェンドなどの強弱変化を鍵盤移動で表現するしかなく、とても不便な楽器である。」

2段チェンバロはそのような強弱変化のために作られたのではありません。アクセントやクレッシェンドやデクレッシェンドなどの強弱変化が重要な表現手段になったのは、古典派以降のことです。

 

エコー効果

オルガン音楽で「エコー効果」が追求されたように、チェンバロでも「エコー効果」を追求した曲が作られました。

J.S.バッハ作曲:組曲 変ロ長調 BWV821 より エコー(収録準備中)

 

 

ソロと伴奏の対比

オルガン音楽で「ソロと伴奏の対比」が追求されたように、チェンバロでも「ソロと伴奏の対比」を追求した曲が作られました。

次の曲はバッハ自身によって「2段鍵盤のために」と指定されています。

 

次の曲はバッハ自身が2段鍵盤を指定しているわけではありません。けれども、3声のうちの2声を一貫して左手が受け持つことと、ソプラノ声部には独奏として際だった装飾的音形が多用されていることから、私はゴルトベルク変奏曲の第13変奏と同じように2段鍵盤を使い分けて演奏しました。

 

手の交差

音の色彩感を重視するフランスで、オルガンとは違う2段鍵盤の表現がチェンバロで生まれました。2段の鍵盤を同じような音量に設定したうえで、全く同じ音域で演奏するのです。例えるなら、ヴァイオリンとフルートがアンサンブルするような感じです。どちらが目立つということもなく、音色の異なる2種類の楽器の音が混ざり合った、特別な色彩感を表現できます。

 

次のバッハの2曲では、さらに両手の音域を大きく交差させることで、まるで手が3本あるかのような表現も加わっています。1段鍵盤でも弾けそうに思えますが、所々で両手の音域が完全に重なって2段鍵盤でないと弾けません。

(余談ですが、この両手の音域が完全に重なるところを1段鍵盤で弾こうとするから、ピアノの世界ではゴルトベルク変奏曲が超難曲とされているのです。2段チェンバロならゴルトベルク変奏曲はそんなに演奏不可能な曲ではありません。)

 

突然の強弱変化

突然の強弱変化を効果的に使う表現は、エコー効果のほかにも追求されました。次の曲は、楽しい夢を見ている所に目覚まし時計が突然けたたましい音で鳴って邪魔をします。

F.クープラン作曲:目覚まし時計(収録準備中)

次の曲は楽譜に2段鍵盤の指示はありませんが、合奏と少人数アンサンブルとの交替をイメージして演奏しました。作曲者のベームはバッハの先生でもありましたから、こうした曲がバッハのイタリア協奏曲の成立に影響を与えた可能性もあるかもしれないと思っています。

 

イタリア協奏曲第1楽章

鍵盤移動を観察しよう

次の動画は、私が演奏したイタリア協奏曲の第1楽章です。お送りしたイタリア協奏曲の初版の楽譜と見比べて、どこで上下の鍵盤を移動しているかをチェックしましょう。

 

ダメな演奏

YouTubeに氾濫している、イタリア協奏曲第1楽章のダメな演奏について解説します。どういう所がなぜダメなのか、しっかり把握しましょう。

 

感動するところ

イタリア協奏曲第1楽章で、私が特に「素晴らしい!」と感動するポイントについて解説します。楽譜をそのままなぞってもこうなりません。何をどう工夫するといいのか、しっかり把握しましょう。

 

徹底理解しよう

イタリア協奏曲第1楽章について、私が工夫した事柄をすべて丁寧に解説します。そのため、かなり長時間の動画になっています。楽譜と見比べて、一つ一つのポイントをよく理解しましょう。

 

イタリア協奏曲第2楽章

(準備中。5月上旬開講)

 

イタリア協奏曲第3楽章

(準備中。6月上旬開講)