本当の共同制作

先日ご紹介した記事「総譜から作品解釈の手がかりを得る」で、フルート奏者の浅利守宏さんのことを紹介しました。そうしたら、浅利さん本人から素晴らしいコメントを頂いたのです。なんて謙虚な、そして探究心に満ちた方なのでしょう!

練習する時、ピアノスコアと旋律だけの楽譜を並べて練習します。その時、フルートで他の旋律を吹いたり、ハーモニーをアルペジオにして響きを確かめますが、初めて合わせをする時の新鮮さは何とも格別なものがあります。

(フルート奏者 浅利さんからのコメント)

心ある旋律楽器奏者は、作品全体の中で自分のパートが占める位置や役割を知るために総譜(スコア)を参照するものです。けれど、実際に他の旋律を吹いたり、和音まで音に出して確かめることまでする共演者には私は出会ったことがありませんでした。

ですから、浅利さんと新しい曲を合わせる時にはいつも、チェンバロの事情も把握した上で練習してくれているんだと感じます。よくありがちな「自分の旋律を自分勝手な歌いまわしで演奏することしか頭に無い」という姿勢とは正反対です。「自分を主張したい」というレベルを超越して、「伴奏も含めた作品全体として表現したい」ということです。

自分だけで練習していてもイメージ出来なかった部分は確信へと変わり、またイメージしていたものとは全く違う響きだったり。それは、同じ曲を前にやっていても、また新たな発見があります。

(フルート奏者 浅利さんからのコメント)

自分がよく分からないところを「はったり」でごまかす共演者を何度も経験してきました。私が作品全体の分析に基づいてその部分の解釈を提案すると、プライドを傷つけられたとばかりに怒り出す人も何人もいました。浅利さんは正反対です。「イメージ出来ない」「イメージしていたものとは全く違う」ことをあっさりと認め、そこから躍進するのですから。

「新たな発見」という表現をしています。これこそ、「自分がどう演奏したいか」よりも「何が真実なのか」を重視する浅利さんの姿勢を表していると思いませんか?

伴奏者を英語ではアカンパニストと言いますが、自分にとってアカンパニストはもっと存在として大切な共同制作者です。

(フルート奏者 浅利さんからのコメント)

私が持っているCDにも、伴奏者が完全に脇役として甘んじて、聞くに堪えない退屈な演奏をしているものがあります(そんなCDは棚の隅に追いやって二度と聴きませんけど)。私は特に少人数のアンサンブルにそんなことがあってはならない、とずっと思ってきました。でも一方で、それは自分が伴奏者だからなのか? との疑問もありました。よい伴奏者として、旋律楽器を目立たせてあげるほうが喜ばれるのか?

でも浅利さんは伴奏者を「共同制作者」だと言ってくれます。自分ひとりが目立ち、評価されるよりも、共同で音楽を作り上げるほうを望んでいるというのです。

自分は八百板さんのチェンバロで上手く踊れる。それがいつも楽しみなのです。

(フルート奏者 浅利さんからのコメント)

浅利さん、そんな風に言ってもらえて、すごく嬉しいです! チェンバロはある意味でとても不便な楽器で、歌うのも踊るのも苦労します。だから、私の分までフルートが歌ったり踊ったりしてくれれば、私も歌えて踊れたような喜びに浸れるのです。これこそ、互いを補い合う「本当の共同制作」ですね。

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本当の共同制作” に対して5件のコメントがあります。

  1. 家合映子 より:

    とても興味深く読ませて頂きました。家合映子=<。

    1. 八百板 正己 より:

      家合さん、ありがとうございます。
      家合さんも、オルガンの通奏低音でアンサンブルに加わるときに、遠慮せずに積極的に音楽作りに参加しようとなさる姿勢がすてきですね。

      1. 家合映子 より:

        すみません・・・。でも・・またよろしくお願いいたします。家合映子(゜))<<

  2. 松下かよこ より:

    私は合唱もしていますが、
    自分のパートしか知らないとうまくハモれないと思い、他のパートのCDを聞いたりしています。

    そうすることで、より自分の演奏(パート)もきちんと吹けるだろうし、ハーモニーも美しくなると信じています。

    同じような考えのプロの方がいらして、嬉しい気持ちです。

    1. 八百板 正己 より:

      コメントありがとうございます。
      合唱もなさるのですね。楽器を弾く人は合唱を経験することですごく勉強になって力をつけます。さらに他のパートをよく知ることで全体を把握しようというのは、とても素晴らしい取り組みですね。

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