アカマツが気になる

今まで50往復くらいしたはずの道なのに、全く気が付きませんでした。米山サービスエリアの前後の高速道路沿いに、こんなにアカマツの木がたくさん生えていたなんて。

私が音楽監督を務める新潟バッハ管弦楽団&合唱団は、毎月一回上越市内でも練習があります。今日はその上越会場の練習日でした。練習にお借りしている教会にはパイプオルガンがあります。今のところ上越会場では合唱の練習だけなので、そのパイプオルガンを使わせていただいて、チェンバロを持っていく必要はありません。同団の練習会場3ヶ所(新潟、長岡、上越)の中では見附のスタジオから一番遠いですが、身一つで行けばいいのですから楽なものです。

練習が終わった帰り道、はじめは平野を走っていた北陸自動車道は海岸沿いを走るようになり、同時に右側には名峰米山から続く山地が迫ってきます。そして、ふと気がついたんです。何だか見慣れない樹形の木が多いなと。アカマツだというのはすぐに分かりました。アカマツって岩場とかに生える木じゃなかったっけ?海岸に植えられるのはクロマツだし。でも、やっぱりアカマツです。それも、10本とかそんなものではないんです。走っても走ってもアカマツだらけ。時々は他の木のほうが多くなることがあっても、またアカマツ林が現れます。

やがて米山を超えて柏崎の平野に入ると、やっとアカマツは見られなくなりました。でもその後も長岡との境の山に入っていくと、ありましたありました、少ないけれどアカマツです。今日の私の目は気になったせいでアカマツを見逃しません。

不思議なものですね。今までの50往復でも目には入っていたはずだと思うんです。でも気がつかなかったんです。まあ、目に入ったものを全部意識していたら気が狂ってしまうけれど、こんなにアカマツだらけだったことを見逃すなんて。

思えば、私がこの米山サービスエリアの前後で気にするのは「新緑が美しい」「紅葉が美しい」くらいしか無かったと思います。どちらも落葉広葉樹についてのことですね。今日これに「アカマツがたくさん」という見方が加わりました。一度気が付いてしまえば、これからはいつもアカマツが目に入ることでしょう。もしかしたら同じ針葉樹仲間である杉も気になり始めるかもしれません。

 

音楽でも同じです。ずーっと見過ごしていたことも、一度分かってしまえばもう見逃すことはありません。

フランスのバロック音楽特有の装飾音に「ポール・ド・ヴォワ」というものがあります。「ティエルス・クレ」というのもあります。どちらも、音楽の中にそれが出てきただけで「ああ、フランスだ・・・」とその優美さに溜息をついてしまう特別の装飾音です。それが、バッハの音楽、とくにフランス風を意識したようなところに結構たくさん使われているんですよ。

初めてそのことを聞いたのはたしか15年以上も前の東京でのマスタークラスだったと思います。その時は半信半疑でした。「本当かねえ。たまたまそう解釈することもできる偶然の形なんじゃないかな。」とも思ったものです。でもその日以来、指摘されたのと同じ形がバッハの他の曲からも次から次へと見つかったんです。

私のバッハを見る目は変わりました。装飾音の演奏法がフランス風に変わっただけではありません。曲全体がフランスを意識して作られたのだということも分かります。ということは、前後の別の曲は対照的にイタリアを意識して作ったのかな?などということも見えてくるんです。

今ではそれを推し進めて、「バッハのフランス組曲の中では、フランス風の楽章とイタリア風の楽章がはっきりと使い分けられている」と断言することができます。演奏を聴く場合も、「次の楽章はどっちだ?フランス風か?イタリア風か?」と予測しながら聴くのが本当に高度な楽しみ方です。バッハが活躍したころのドイツはちょうど、フランスに憧れるそれまでの伝統の上に、新しくイタリア旋風が巻き起こった、ダイナミックな時代でした。バッハの新作初演に立ち会った人々もきっと「次の楽章はどっちだ?」とワクワクしながら聴いたことでしょう。

新しい見方に気が付くことによって、一段高い次元で世界が見えてくるようになるんですね。

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