単にチェンバロという楽器の弾き方を学ぶだけでなく、バロック音楽観そのものを大きく広げます。

レッスンで「ここは教会の合唱の雰囲気で」「ここはリュートの音を模倣して」「ここは弦楽器の弓さばきのように」と説明しても、合唱やリュートや弦楽器に馴染みがなければピンと来ません。ですので、私の手持ちのCDから選曲して、楽譜が手に入ればそれも準備して、レッスンのときに解説付きで聞いていただけるようにしています。新潟市内での出張教室にも毎回持ち運んでいます。

今ご用意しているメニューは以下のとおりです。メニューは毎月のように増え続けています。

<1.ルネサンス合唱ポリフォニーの極致>
パレストリーナ作曲「教皇マルチェルスのミサ」より キリエ

対位法はバロック音楽の特徴と思っている方も多いようですが、その前のルネサンス時代にもう完成してしまったのですね。限りなく透明な美しさは奇跡のようです。

<2.バッハのリュート曲>
バッハ作曲「前奏曲、フーガとアレグロ 変ホ長調」より 前奏曲

バッハ自身はリュートを弾けなかったようで、代わりにチェンバロにリュートの弦を張った楽器を特注して弾いたそうです。それならリュートでは弾けないような音符の多い多声部の曲を作っても良さそうなところですが、バッハはリュートの響きの特性を生かすために、チェンバロ曲に比べて音符(特に同時に弾く音符)をかなり少なめにした「リュート曲らしいリュート曲」に仕上げています。

<3.超巨大編成!>
ビーバー作曲「53声部のザルツブルク大ミサ曲」より キリエ

チェンバロ教室の皆さんが取り組んでいらっしゃる「チェンバロ独奏」は、たった一人で演奏する一番小編成のバロック音楽ですね。その世界に浸りきっているとつい忘れがちなことがあります。バロック芸術の理念の一つに「誇張表現」というのがあります。何事も節度をわきまえずに誇張して表現するのです。バッハが生まれる数年前に作られたこの曲では、ザルツブルクの教会の1000年に一度の記念行事という重要性をあらわすために、常軌を逸した超巨大編成を採用しているというわけです。「バロック音楽」に対する認識が変わると思いますよ。

<4.たった1つのヴァイオリンでフーガ!>
バッハ作曲「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番」より 第2楽章 フーガ

鍵盤楽器と旋律楽器の違いについて、「鍵盤楽器は音を出すのは簡単な代わりに、同時にいくつもの音を弾くのが難しい」「ヴァイオリンは音を出すのは難しい代わりに、一つの旋律だけを弾けばいい」と言われますね。普通はそうなのですが、バッハは普通ではありません。なんと、伴奏なしの1つのヴァイオリンで4声のフーガを弾いてしまうのです。

<5.両手両足を駆使して6声部!>
バッハ作曲 オルガン・コラール「深き苦しみの淵より」BWV686

速い音符は一つも出てこないのに、バッハのすべてのオルガン曲の中で最も演奏困難なものの一つです。その理由は、手で4声部、足で2声部!!! 合計6声部の非常に緻密な対位法です。マルティン・ルターがバッハより200年も前に作った由緒正しいコラール(賛美歌)のメロディーをもとに作られた、厳粛で荘厳な巨大な精神世界です。一人の演奏者に演奏可能な音楽の領域を極限まで広げたものといえるでしょう。

<6.バロック歌唱の美>
パーセル作曲 オペラ「ダイドーとエネアス」より ダイドーの哀歌

日本が世界に誇るバロック歌唱の第一人者、波多野睦美さんの素晴らしい歌をお聴きください。バロック時代の演奏習慣をふまえた、抑制されたヴィブラート、各音符の中ほどを膨らませるメッサ・ディ・ヴォーチェ、美声の披露よりも歌詞を語ることに力点を置くこと・・・。よく耳にする自己顕示欲の塊みたいな歌い方と正反対ですが、これがバロック時代の歌い方なのです。

曲はバロック中期のパーセルによる傑作です。恋人に裏切られて死を選んだ誇り高き女王が、歌いながら死んでゆきます。通奏低音は5小節の下降半音階をひたすら繰り返すだけですが、それが悲劇性を一層引き立てます。

<7.厳格な対位法が信じられないくらい過剰に装飾されていた実例>
フレスコバルディ作曲 ファンタジア 第1番

バッハの100年ほど前に、当時ヨーロッパで最高のオルガニストとして君臨したイタリアのフレスコバルディの作品です。自由奔放で過激なトッカータがよく聴かれますが、ここでは正反対の厳格な対位法によるファンタジアをお聴きいただきます。

楽譜では全く厳格な対位法なのですが、この録音の演奏者(イタリアのFrancesco Tasini)は、当時のイタリアの演奏様式の研究に基づいて、信じられないくらい過剰に装飾を加えているのです。私たちが通常「バロック音楽の装飾」というとトリルなどを思い浮かべますが、イタリアの装飾は細かい音符によるものが主体です。バッハの音楽の装飾法を詳しく勉強して知識と感覚を身につけていても、フレスコバルディの音楽にはほとんど役に立たないともいえます。ぜひ楽譜を見ながら、唖然とする装飾の嵐を浴びてください。

<8.本当は「甘ーい癒しの音楽」ではないのです>
パッヘルベル作曲 カノンとジーグ

「パッヘルベルのカノン」といえば、いわゆるバロック名曲集に出てくる代表格ですから、絶対にどこかでお聴きになっているはずです。ですが、あのポピュラー音楽っぽい感じがバッハの一世代前の音楽とはとても思えません。それは演奏法がいけなかったのです。

<9.バロックの金管アンサンブル>
シュメルツァー作曲 ソナタ第12番

「残響豊かな教会に響く荘厳な音色」というと、まずはパイプオルガンを思い浮かべるかと思いますが、それと同じくらい古い伝統を持つのが金管アンサンブルです。

使われる楽器は、トランペット、トロンボーン、そして古い時代にしか使われなかった特殊な楽器である「コルネット」、そして通奏低音を担うオルガンです。今「コルネット」というとトランペットをもう少し丸くした新しい楽器を指しますが、古い時代のコルネットは全く違います。音を出す仕組みは金管楽器と同じなのですが、木でできていて、指で押さえる穴がたくさん開いていますから、見た目は木管楽器そのものです。輝かしさとあたたかさを兼ね備えた、とても魅力的な楽器です。

<10.ルネサンス・イタリアのリコーダー・アンサンブル>
メールラ作曲 カンツォーナ「ラ・ギラデッラ」
チーマ作曲 カンツォーナ「ラ・カプリッチョ」

小学校の授業でも使うリコーダーは、昔は立派な楽器として活躍しました。特にルネサンス時代には大小さまざまな大きさのリコーダーを組み合わせての、リコーダーだけのアンサンブルが好まれました。

<11.バロックオーボエの温かい音色>
テレマン作曲「食卓の音楽 第3集」より オーボエと通奏低音のためのソナタ ト短調(第1、第4楽章)

バロック時代は他のどの時代よりもオーボエが重要な楽器として大活躍しました。この時代のオーボエは現代の楽器よりずっと温かい音色です。

<12.記譜された即興演奏>
パーセル作曲「2重オルガンのためのヴォランタリー」

どこもかしこも即興的に作られたこの曲を、でも楽譜には四角四面にしか書けないので、きっちり4拍子で書かれています。ぜひ楽譜を見ながら、この楽譜をどう扱うとこんなにも自由奔放な演奏になるのかをお聴きください。古い時代の中全音律に調律されたオルガンの響きも聴き所です。

<13.繊細かつ色濃いフランスのヴィオラ・ダ・ガンバ>
ドレ作曲「父マレのトンボー」

フランスはヴィオラ・ダ・ガンバが最も活躍した国です。フランスでもヴァイオリンは活躍しましたが、チェロは繊細なフランス人の好みに合わなかったらしく、チェロの代わりにもっぱらヴィオラ・ダ・ガンバが使われました。「トンボー」とは墓のことですが、尊敬する人物に捧げる追悼曲がこの名で呼ばれました。フランス音楽は表面的には繊細でも、中身はとても濃厚です。バロック音楽の演奏ではあまり聴かれないヴィブラートも使われていますが、これはフランスのヴィオラ・ダ・ガンバ音楽特有の装飾音記号の一つとして、楽譜にしっかり書き込まれているのです。

<14.いわゆる「G線上のアリア」の本当の対位法>
バッハ作曲「管弦楽組曲第3番より エール」

「G線上のアリア」の通称で親しまれているバッハの名曲です。バッハは4声部の弦楽合奏として作曲しました。それを100年後のあるヴァイオリン奏者が(自分がコンサートで演奏するためか)ピアノ伴奏を伴ったヴァイオリン独奏曲に編曲しました。その際に、ハ長調に移調した上で第1ヴァイオリンのパートをオクターブ下げ、ヴァイオリンの一番低い弦(G線)だけで演奏するようにしたのでこの名前で呼ばれるようになりました。

本来はあのバッハが弦楽4声部のために作ったのですから、バッハならではの緻密な対位法です。その素晴らしさ、特にヴィオラや第2ヴァイオリンが、どれだけ素晴らしい対旋律で絡んでいるのかを、楽譜を見ながら確かめてください。お聴きいただくこの録音では、各パート1人ずつの最小編成です。独奏者たちの集まりとして、互いに自由に語り合った演奏も聴き所です。

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